第51話 ホームレスの告白


「宇多方」について語ろう。


「R条約」の裏事情を知る人物を見つけることができた。SNSを最大限に駆使して、多くの人々に呼びかけることで、ようやく辿りついたのだ。


 その人物は意外にも、奈落市の公園を根城ねじろにするホームレスの老人だった。もっとも、かつては国防省の役人であり、別界からの「戻り人」でもあった。老人によると、政府と別界の密約は確かに存在するらしい。


 僕が手土産のウイスキー・ボトルを手渡すと、老人は滑らかに極秘情報を語り始めた。要約すると、「R条約」の骨子こっしは、別界の革新的な科学技術と引き換えに、政府は生贄いけにえを差し出す、というものらしい。生贄は未来永劫みらいえいごう、別界に捧げられる。


 まず、宇多方の自治体は、クジ引きによって住民の中から生贄を選ぶ。選ばれた住民の元には、強制召喚状きょうせいしょうかんじょう、通称「クロガミ」が届くらしい。


 これは宇多方住民の義務であり、拒否することは許されない。戦時中の赤紙のように、拒否をしたら監獄行きなのだろう。彼らは人身御供にされたに等しい。


 もし、これが真実なら、ひどい話だ。根本的に基本的人権を無視している。本当に人身御供のようなことが行われていたのだろうか。僕が宇多方にいたのは子供の時だけだが、「クロガミ」という言葉は初めて聞いた。


「R条約」「人身御供」「クロガミ」に関する情報は、いくら調べてみても見つからなかった。そもそも、元役人のホームレスの情報には一つの物証はない。裏付けをとろうと奔走したのだが、それらしきものは皆無だ。再度、老人から話を聞こうと思ったのだが、公園から姿を消してしまい、二度と会うことはなかった。


 老人の話は妄想にすぎなかったのかもしれないし、最初から嘘八百だったのかもしれない。それともまさか、大きな力が働いて、口封じのために消されてしまったのか。



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