第49話 河童の子供


「宇多方」について語ろう。


 仕事で出会った弁護士から聞いた話である。彼は大学入学と同時に上京し、住民票は東京都に移したが、宇多方で生まれ育った人物である。


「小学生の頃、田んぼのあぜ道で、河童の子供を見つけたことがある。青い肌をしていたけど、最初は生まれたての仔犬かと思ったよ。野良犬にでも襲われたのか、怪我をしてピーピー鳴いていた。頭頂部に皿こそなかったが、指の間には確かに水かきがあった。


「とりあえず、写真を撮っておこう。そう思って、家に帰ってカメラを取ってきた。でも、戻ってきた時には、河童の子供は消えていたんだ。たぶん、野良犬かカラスの仕業だろうね。もっとも友達に話しても、誰一人信じてくれなかったよ。


「月日が流れ、十数年が経過した。上京して大学のコンパに行った時、一人の女の子と出会った。何気なく彼女の手を見て、びっくりしたよ。指の間に水かきがあったんだ。彼女は僕と同じ宇多方出身で、別界からの〈戻り人〉だったんだ。


「言っておくけど、ごく普通の女の子だよ。口数は少ないけれど、笑顔がとびきり可愛かった。だから、交際を申し込み、お付き合いを始めた。司法試験に合格して、弁護士事務所で勤め始めてから二年目、思い切ってプロポーズした。


「後は君の知っている通りだ。彼女は僕の妻になり、翌年、無事出産した。未熟児だったので、初対面の時、息子は保育器に入っていた。あの時ほど、驚いたことはない。河童の子供と再会したんだよ。


「え、気味が悪かったって? 何を言うんだい。とても可愛くて仕方ないよ」

 そう言って、弁護士はニッコリ微笑んだ。






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