第48話 キジトラの毛玉


「宇多方」について語ろう。


 小学生の頃の話だ。当時は桃乃華市の住宅街で暮らしていた。野良犬は見かけなかったが、野良猫の数はかなり多かった。あちこちの家から餌をもらって、優雅な暮らしをしている猫もいたはずである。


 近所に有名なキジトラがいた。キジトラというのは、ネコの模様の種類である。茶色ベースに黒の縞模様が入っており、最も一般的な柄だと言われている。そのキジトラはまるまると太っていて、バレーボールのようだった。


 かなり高齢のネコらしく、

「そのうち、猫又になるかもしれんよ」と、祖母は言っていた。


 家で飼われている猫は年老いると、妖怪・猫又になり、人間に化けられるようになるらしい。猫又になるかどうかはともかく、キジトラは我が家のクーラーの室外機にのって、居眠りするのが大好きだった。


 ある日、気まぐれに、メザシの頭を与えてみた。舌が肥えているのか、キジトラは見向きもしない。昨夜の刺身の残りでも結果は同じだった。どこか体調が悪いのかもしれない。


 キジトラは苦しげに、ゲフゲフと咳き込むと、口から何か吐き出した。最初は毛玉だと思ったのだが、それにしては大きすぎた。大人の拳ほどもある。しかも、動きはじめたのだ。


 ぬれた毛玉もどきは紐状に形を変えると、毛虫のようにモゾモゾと這いまわり、やがて、排水溝の中に消えた。


 あれは一体、何だったのか? 考えるまでもない。おそらく、別界の魔物だったのだろう。キジトラが餌と間違えて、食べてしまったのかもしれない。魔物を吐いてスッキリしたのか、キジトラは室外機の上で大あくびをして、また居眠りを始めた。


 その後、排水口の周辺には注意していたのだが、魔物は二度と姿を現さなかった。


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