第42話 子供たちの声


「宇多方」について語ろう。


 桃乃華市のとある住宅街の真ん中に、小さな公園がある。以前はブランコとシーソーがあったのだが、五,六年前に安全上の問題で撤去されてしまった。今では雑草の生い茂った、うら寂しい公園である。


 ただ、奇妙なことに、いつも子供たちの笑い声が絶えない。少なくとも、僕が公園の前を通りかかったときには、そうである。人影が一つも見えないのに、子供たちの声だけは確かに聞こえてくる。


 専門家によると、子供たちは現世と別界との境目にいるらしい。おそらく、どちらにも行けず、境界線上にとどまっているのだろう。これも神隠しの一種である。見えない子供たちの時間は、永遠に止まっているのだ。


 このような時空を「よど」と呼ぶらしい。時間と空間が淀んでいる、というわけである。再び、子供たちの時間が動きだす時はくるのだろうか? もしこなければ、未来永劫、淀んだ時間と空間の中で、友達と笑い、はしゃぎ続けるしかない。


 子供の声が小鳥のさえずりのように聞こえるせいか、僕は公園の前を通る度に、凍りついた鳥かごを連想してしまう。



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