第41話 別界ハンター


 今回は趣向を変えて、「別界」について語ろう。


 イギリスの冒険家,ジェームズ・ブレインズは、世界の謎と驚異を暴いてきた。かなりの高齢のはずだが、強靭な肉体と不屈の闘志は変わらない。


 オフレコになるが、コンゴ奥地での武勇伝は、業界筋で有名である。何と、恐竜の子供を捕獲したのだ。もっとも、公式発表では、モケーレ・ムメンベ(アフリカのネッシー)を目撃したということになっている。


 ブレインズが捕獲したのは、プレシオサウルスの子供だった。その両親や仲間が存在しているだろうことは、素人でも想像がつく。だが、イギリスは調査隊を派遣しなかった。ブレインズが恐竜を捕獲した場所が、コンゴの「別界」だったためである。


 ブレインズは弟子に言ったらしい。「真の冒険家は常に、沈黙を強いられるものだ」と。別界の存在は国家機密に属するため、彼の偉業が公にされることはなかったのだ。ちなみに、プレシオサウルスの子供は、別界に戻されたという。


 別界からの「戻り人」は、その証としてユニークな刻印を刻まれる。ブレインズは、世界十六カ国の別界を巡ってきた。別界に行く都度に刻印が増えるため、全身が別界の刻印だらけというのだ、もっぱらの噂である。


 前にも述べたが、「宇多方」の刻印は、VとCが重なったようなマークだ。刻印は国にとって異なる。ペイズリー柄のようだったり、幾何学模様のようであったりする。色だって、黒ばかりではない。ブレインズの場合、黒に赤,黄,緑を加えたラスタカラーらしい。


 もっとも、彼はインタビューで全身の刻印のことを尋ねられ、「ただの刺青だ」と笑って答えたという。


 別界と現世を行き来するのは、強靭な肉体と不屈の闘志が不可欠だ。その生きる証が、ジェームズ・ブレインズである、と言っても過言ではないだろう。そんなブレインズが南極の別界に旅立って、二年以上になる。


 予定では遅くても半年で帰還する予定だったので、何らかのトラブルが発生した可能性がある。もしかしたら、二度と彼の笑顔を見る機会はないかもしれない。


 だが、業界人にとって、ブレインズは永遠のトップスターであり、間違いなく憧れの存在であり続けるだろう。




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