第30話 ジャンク坂


「宇多方」について語ろう。


 奈楽市の北部に、竜晄山りゅうこうざんという霊峰がある。鬼の伝説が残っており、化け物やUFOの目撃談も少なくない。


 その一方で、ハイキングコースとしても、市民から愛されている。竜晄山の麓から中腹にかけて、なだらかな坂が延々と続く。上りの場合、左手は鬱蒼うっそうたる森、右手は深い谷になる。


 道幅は狭いのだが、軽トラックなら充分入ってこられるので、谷底へのゴミの不法投棄が後を絶たなかったらしい。


 そのため、このあたりは「ジャンク坂」と呼ばれている。折り重なった大量のゴミは厄介なトラブルを引き起こす。夏になると、不気味なものがひんぱんに目撃されるのだ。一言でいうと、妖怪もしくは化け物である。


付喪神つくもがみ」を御存知だろうか? 人間が日常的に使っている道具はすべて、百年経つと魂が宿り、付喪神になるという。現代ならスマホやパソコン、ワイヤレスイヤホンも付喪神になる理屈だろう。蛇足になるが、「神」の文字がついていても、付喪神の本質は妖怪である。


 ジャンク坂のゴミが百年も経っていないのに付喪神になったのは、世間の流行や時代の移り変わりがスピーディーになったからだろうか。


 それはさておき、ジャンク坂の付喪神はまれに、人を襲うことがある。自分を捨てたことに対する怒りか、妖怪の本能なのか、通行人や通行車両に悪さを仕掛けるのだ。


 被害の内容は多岐にわたる。通行人の持ち物をこっそり盗んだり、人に噛みついて血を吸ったり、ドライバーを驚かせて事故を誘発したりするという。二つの自治体は、付喪神の被害を重く見て、ジャンク坂の不法投棄に禁じる条例を公布した。


 しかし、状況はあまり変わらない。決まり事を破る連中はどこにでもいるからだ。もっとも闇に紛れて不法投棄をおこない、その帰りに付喪神の被害にあうのだから、自業自得といってしかるべきだろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る