第27話 百鬼夜行(ひゃっきやこう)


「宇多方」について語ろう。


 桃乃華市が嵐に襲われた時のこと。住宅街の女性が深夜、窓越しに奇妙なものを目撃した。外は真っ暗闇なのだが、いくつもの光るものが塀よりも高い位置に、フワフワと漂っているのだ。


 それらは、夜行性の獣の眼のようだった。目を凝らしてみると、大きな影が移動しているのがわかった。一匹や二匹ではない。おびただしい数だ。雨音が大きいせいか、足音はまったく聞こえなかったという。


 彼女は恐怖で、歯の根が合わなかった。大きな影が「別界」からやってきた魔物であることは、容易に想像がついたからだ。嵐の夜には「門」が開く。宇多方には、そんな言い伝えがある。


「別界の魔物」が人間を連れ去るのは、食糧とするためなのか? それとも、子供を産ませるためなのか? 彼女の母も祖母も魔物に連れていかれた。今度は自分の番かもしれない。


 彼女は幼子おさなごのように、布団の中にもぐりこんだ。一睡もできず、ガタガタと震え続けた。幸い、彼女は無事だった。魔物に襲われることなく、朝を迎えた。


 嵐が汚れた空気を洗い流し、空気は澄んでいた。彼女が勇気を振り絞って、玄関から外に出てみた。アスファルトの上には、巨大な獣のような足跡が数多く残されていたという。



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