第26話 黒き魔女と七人の餓鬼(がき)


「宇多方」について語ろう。


 春一番が吹く季節になると、黒き魔女が宇多方にやってくる。魔女は、七人の小さな鬼を引き連れている。『白雪姫と七人のこびと』ならぬ、「黒き魔女と七人の餓鬼」だ。


 魔女と餓鬼の狙いは、人間の夢である。例えば、一流アスリート、大企業の経営者、カリスマモデル。もちろん、夢を現実のものにできるのは、一握りの者だけである。


 壮大な見果てぬ夢は、絶望と破滅を招きやすい。理想と現実のギャップに苦悩し、失望や裏切りを何度も体験する。その結果、他人を信じることができなくなる。人生に絶望して、無味乾燥な日々を送る羽目になるのだ。


 人間の夢は魔女にとって、たまらない御馳走となる。ペリペリと人間から夢を引きはがすと、絶望とブレンドして餓鬼どもに喰わせる、と言われている。


 夢を奪われた者は、半日もたたないうちに、一気に老けこんでしまう。若者であっても肌の張りと艶を失い、腰が曲がり、髪の毛がごっそり抜け落ちるのだ。


 例えば、近所のアパートに住んでいたアイドル志望の女性は、二十歳になったばかりなのに、ガリガリにやせ衰えて亡くなった。信じがたいことに、死因は老衰だったらしい。




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