第23話 黒い刻印


「宇多方」について語ろう。


 桃乃華市の循環バスがトンネルを抜ける際、隣にいた乗客が消えていることがある。年配者の中にはフリーパスをもちながら、消失を怖がって、バスに乗らない人もいるらしい。乗客が消えた理由は言うまでもない。間違いなく、神隠しにあったのだ。


 神隠しというものは、「別界の魔物」に連れ去られた、と言い直してもいい。消失防止対策として、お守りを携帯する乗客も多い。


 人気が高いのは、宇多方神社のお守りである。神通力のある宮司が念を込めているらしい。この魔除けさえあれば、もし別界に連れていかれたとしても、現世に戻ってこられるらしい。


 もっとも、僕はお守りの効果を試したことはない。お守りの御利益がどうにも信じられず、トンネルを通過するバスには乗らないようにしている。


 蛇足になるが、別界から生還した「戻り人」の腕には、明らかな印が刻まれている。その印とは、VとCが重なったような黒い刻印だ。




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