第20話 人を喰らう黄昏


 宇多方について語ろう。


 宇多方の夕焼けは、とても美しいという評判である。もしかしたら、日本一かもしれない。

「夕暮れ」「日暮れ時」。英語でいうと「トワイライト」。「雀色時」という素敵な言葉もあるが、僕自身は「黄昏」という呼び方が一番好きだ。


 電気と街灯がなかった時代、日が暮れると暗くて相手の顔が見えなかった。そのため、「かれ」と言い表し、そこから「黄昏」に変化したらしい。


 もっとも宇多方の住人には、のんびりと夕焼けを楽しむ余裕はない。もったいない話だと思うが、黄昏の意味合いを考えれば、それは仕方ないのかもしれない。


 黄昏とは「漆黒の闇」の入り口なのだ。闇とは、鬼や魔物、あやかしなどの住処とされている。だから、宇多方の子供たちは、夜になっても外で遊んでいると、こっぴどく叱られた。


「陽が暮れる前に帰って来な。帰ってもないと、黄昏に喰われちまうぞ」と言われるのだ。


 昔は黄昏時になると、大勢の子供が行方不明になったらしい。他の地方なら人さらいにあったのかもしれないし、何かの事件に巻き込まれたのかもしれない。


 しかし、宇多方の場合は、神隠しで決まりである。


 昔の人は神隠しを「神喰い」と呼んでいた。行方不明の子供たちは、文字通り、神のような黄昏に喰われたと考えられたのだ。


 つまり、「」というわけである。






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