第19話 黒いカモメ


 宇多方について語ろう。


 桃乃華市の川沿いに建つマンションでの出来事である。住人が買い物から帰ってくると、空から「ギャアギャア」という鳴き声が降ってきた。


 真っ黒なのでカラスだろうと思ったが、それにしては大きすぎる。シルエットから見て、カモメによく似ていた。大きな翼を広げて、マンション周辺を悠々と旋回していたという。


 間近で目撃した住人によると、翼を開くと二メートルはあったらしい。


 野良猫をむさぼる姿は、見るからに禍々まがまがしくまわしい姿だった。住人のペットをさらって喰らうこともあり、肉食獣のような獰猛さを見ると、「別界」の鳥なのだろうと思われた。


 小さな子供を追いかけたこともあったし、このままでは人間を襲う可能性が高い。


 マンションの管理人が役所に相談を持ちかけると、すぐに防護服を着た駆除係がやってきた。

 係員によると、今は黒いカモメの繁殖期であるらしい。マンションに巣作りをされ、数を増やされては敵わない。


 係員は、マンションのいたるところに、緑色の液体を噴霧した。聞けば、別界の鳥類が嫌う薬剤であるらしい。


 黒いカモメはギャアギャアと係員を威嚇いかくすることもあったが、緑の液体をあびせると、どこかへ飛び去ってしまった。おそらく、生まれ故郷の別界に戻ったのだろう。


 しかし、二度と戻らないとは限らない。係員によると、来年も現れる可能性が高いという。



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