第15話 夢を喰らう獣


 宇多方について語ろう。


 人は眠ると、必ず夢を見る。夢など見ていないという人も実際には見ていて、目覚めたとたん忘れてしまうらしい。

 だが、「別界の門」の近くに住む人々は、夢を見ないらしい。どんなに見たくても見ることができないのだ。


 高齢者の多くは、「別界の獣が喰らうからだ」と信じている。戦時中は、恐ろしい悪夢を喰らってくれるので、ありがたかった、という話である。

 バクの伝説とよく似ているが、その獣の外見はバクとは似ても似つかない。意外な

ことに、クラゲに似た獣であるらしい。


 郷土史家から紹介された古い絵巻物を紹介しよう。『宇多方権現縁起うたかたごんげんえんぎ』である。その中に「夢を喰らう獣」が出てくるのだ。


 絵を見ると、確かにクラゲに似ていた。鏡餅に似た身体は青白く、毛むくじゃらの長い脚を十本以上もっている。生息地は山奥であり、木にぶら下がった姿は、ナマケモノのようである。外見は不気味であるが、滋養豊かで大変美味であるらしい。


 この「夢を喰らう獣」は、第11話「化学工場」に登場したクラゲに似た死体と同一のものなのだろうか?


 複数の高齢者によると、「夢を喰らう獣」は異能の力をもっていたらしい。夢を奪うだけでなく、人間の思考を読みとり、その容姿を真似ることができたというのだ。


 どうやら、別界の獣は人間に姿を変えて、宇多方に侵入していたらしい。化学工場のスタッフは、気づいていなかったにちがいない。亡くなった七人が別界の獣であったことを。







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