第14話 化学工場


 宇多方について語ろう。


 五年前に、化学薬品工場の爆発事故があった。有毒ガスの発生により、七人の死者が出た。遺族の要望という理由で、企業は死者の氏名を公開しなかった。


 遺体を目撃した者には緘口令かんこうれいがしかれた。それほど、遺体は酷い状況だったのだ。「クラゲのようだった」というのは、おそらく被害者がジェル状に溶けていたせいだろう。


 爆発事故の被害者を調べ回った新聞記者がいる。

 意外な事実が判明した。七人の履歴書はすべてデタラメであり、遺族など存在しなかったのだ。しかも、有毒ガスに人体を溶かすような成分はなかった。間違っても、クラゲ状になるはずがない。


 まさか、七人の被害者は、人間ではなかったのか?

 その後、新聞記者は取材中に失踪した。宇多方の事故を調べていて、神隠しにあうことは、決して珍しいことではない。


 僕は偶然、この話を耳にしたのだが、「クラゲのようだった」という記述が気になった。確か、別界の獣にそういう形状のものがいる、と記憶していたからだ。(第4話「ステーキショップ」参照のこと)


 これらを考慮すると、やはり別界がらみなのだろう。

 さらに、宇多方の郷土史家の方から面白い話を聞いた。古い絵巻物の中に、クラゲに似た獣が出てくるというのだ。早速、確認してみようと思う。

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