第3話 輸血


 宇多方について語ろう。


 交通事故にあった青年がいた。交差点を渡っている時、信号無視の乗用車にはねられたのだ。救急車で病院に搬送されたのだが、手術が相次いだため、青年の血液型が不足していた。


 青年にとって幸運だったのは、彼に付き添ってきた知人の血液型が合致したことである。直ちに知人から輸血をしてもらったという。


 幸い、青年は順調に回復した。ただ、手術前と比べて明らかな変化があった。


 食べ物に関する好みが変わり、苦手だったユッケが食べられるようになったのだ。以前は、気味が悪いと言って見向きもしなかったのに。


 知人からの輸血が原因なのは明らかだった。なぜなら、知人は生肉を好み、ユッケが大好物だったからだ。


 青年の変化は、食べ物の嗜好だけではなかった。昼間は室内に閉じこもり、肌はみるみる青白くなった。さらに、激昂すると突然、不可解な外国語を話すようになった。


 やはり、輸血が原因なのだろうか?

 輸血が人を変えてしまうことは、宇多方では珍しくない。


 青年に輸血した知人の男は、昔、神隠しにあい、その後、帰還した者だ。俗に「戻り人」と呼ばれている。肌が青白くなり、不可解な外国語を話すのは、戻り人の特徴だった。


 どうやら、戻り人の血によって、青年の運命は大きく変わってしまったらしい。自分の部屋に閉じこもっていたはずなのに、何も言わずに、突然、行方をくらましてしまったのだ。


 周囲の者たちは、「神隠しだ」と噂し合ったという。

 戻り人からの輸血によって、神隠しにあいやすい癖すら伝染してしまうらしい。

 知人の男は責任を感じて、青年を今も捜し回っているという。

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