第4話 ステーキショップ


 宇多方について語ろう。


 桃乃華駅近くの国道沿いに、若者に人気のステーキショップがある。真っ赤なマークが目印の大きな店舗であり、ライバル店より安いので、中高生に大人気だった。


 一時、妙な噂が広まった。


 その店の肉は、牛肉や豚肉、鶏肉ではなく、正体不明の謎肉だというのだ。奇妙な特性をもっているため、「増殖肉」と呼ばれていた。肉塊の一部を使っても、業務用冷蔵庫でひと晩おくと、元通りになっているというのだ。


 その噂を聞いた時は、思わず笑ってしまった。トンデモ都市伝説の類である。

 おそらく、元ネタは古代中国の地理書『山海経せんがいきょう』に出てくる〈視肉〉だろう。


 しかし、どうも気になり、調べてみることにした。


 噂の出元を辿っていくと、元アルバイトの男が浮かび上がった。店側によると、勤務態度が最悪だったので、数週間で辞めてもらったという。


 元アルバイトは当時ひどく荒れて、店の悪口を言いふらしていたらしい。ということは、増殖肉の噂は誹謗中傷ひぼうちゅうしょうたぐいなのだろうか?


 裏付けをとるために、元アルバイトのコメントをとろうとしたが、結局それは果たせなかった。すでにアパートから行方をくらましていたからだ。友人や両親に問い合わせても、居場所がわからない。単なる家出かもしれないが、神隠しにあった可能性もあるという。


 元アルバイトは増殖肉について、こんなことを漏らしていたらしい。

「あの肉の正体は、別界の獣なんだ。中型犬ぐらいの大きさで、毛むくじゃらだが、外見だけを見ればクラゲによく似ている」と。


 尚、ステーキショップは、「国産肉100%」を主張し、噂を全面的に否定している。




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