第2話 少女


 宇多方について語ろう。


 十五年前の話だが、家の中でかくれんぼをしていて、行方不明になった少女がいた。古びた日本家屋なので隠れ場所が多いかもしれないが、友達や家族がいくらさがしても見つからない。


 黒髪を腰のあたりまで伸ばし、黒目の大きさが際立った美少女だったという。


 神隠しにあったのだろう。そういうことになった。


 その少女が十五年ぶりに、押入れの中で見つかった。彼女はずっと押入れの中にいたという。


 しかし、それはありえない。家の者が十五年間に、何度も繰り返し開け閉めをしたはずである。少なくとも一万回以上は開けたはずだ。


 少女は間違いなく、押し入れの中にはいなかった。家族は皆、そう口をそろえた。

 さらに不思議なのは、六歳のままの姿であり、不可解な外国語を話すことだった。

 彼女の話す言葉は、どんな外国語とも違った。世界中のどこでも使われていない言語だと専門家は断言した。


 彼女は十五年間を、どこで過ごしていたのだろう?

 もしかすると、そこでは年をとることがないのか?

 全人類の永遠の夢,不老不死が可能なのだろうか?


 少女が十五年を過ごした場所は、宇多方のどこかにあるはずだ。

 その場所は出現と消滅を繰り返しているらしい。しかも、移動し続けていると考えられる。したがって、いくら行きたいと願っても、簡単には辿りつけないだろう。

 宇多方では、その場所は「別界べっかい」と呼ばれている。





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