うたかた怪談 ~人を喰らう黄昏~

坂本 光陽

古本屋で見つけた手記より①

第1話 神隠し


 行方不明者の数が飛びぬけて多いのが、その地方の特徴である。

 人口一万人当たりの行方不明者数が、全国で最も多い。しかも、全国平均よりも一桁多いとも、実数は十数倍にのぼるとも言われている。


 調べてみると、天狗に連れ去られたとか、あの世に迷い込んだとか、神隠しの言い伝えが数多く残っている。行方不明者をさがしていた探偵まで消えるというし、レアケースだが、集団で消える場合もあったらしい。


 その地方の名は「宇多方うたかた」といい、桃乃華もものか市と奈楽ならく市など五つの自治体を合わせて、そう呼ばれている。

 ことわっておくが、宇多方は国内にあるのだが、あなたが日本地図の隅から隅まで探してみても見つからないはずである。


 なぜなら、宇多方は正式名称ではないからだ。桃乃華市と奈落市も同様である。


 正体不明の巨大生物が目撃されたり、謎の飛行物体が映像にとられたり、不可解な現象が起こったりするエリアは世界各国にある。宇多方はそうした分野の日本代表と言ってもいいだろう。


 行方不明者の多さとの関連は不明なのだが、別の世界との通路が存在する、という噂まである。


 かといって、聖地巡礼気分で行ってみよう、などと考えるべきではない。あなたが神隠しにあわないという保証はないし、軽はずみに訪れるような場所では決してないからである。


 宇多方とは一体、何なのか?


 僕は語ろうと思う。これまで収集してきた、奇妙で不気味な話の数々を。



【補足メモ】


 馴染みの古本屋で、この奇妙な手記を見つけた。第1話『神隠し』以下、不可解な出来事が数多く書かれている。ホラー短編集のようだが、都市伝説の備忘録のようにも思える。フィクションなのだろうが、妙なリアリティをもって迫ってくるのだ。



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