第九話 ラル会長の想い
誰もいない保健室で目覚めた僕の気分は最悪だった。熱があるのか体がだるく、頭はまだ考えることを放棄している。
何をしているのだろうか、と心の中で誰かが問う。
何を期待したのだろう。どうして、変われるなんて思ったのだろう。
誰かに認められたって副作用が無くなるわけでも、普通に生きられるわけでもないのに。
だんだん、自分が惨めに感じられた。消えて無くなりたかった。
頑張れば頑張るほど苦しくなる、駄目になる。けれど、努力しなければ生きる道はない。
わかっている、そう声に出そうとしたとき自分が震えていることに気づく。
寒いわけじゃない。寂しいわけでもない。けれど、涙が溢れていく。
「奏ー?」
その声を聞いて僕は固まった。どうやら神様は僕が思うよりもずっと意地悪らしい。
「泣いているの?」
僕の意志を体すらも裏切っていく。押し殺していたはずの嗚咽が漏れた。それが返事となる。
「ごめんね、追い詰めたよね」
ラル会長が僕の頭を撫でる。グッと顔が近くなり、彼女の長い髪が僕の腕に触れる。
「大丈夫だよ、私が君を一人にしないから。私が守るから」
「だから、怖がらなくていいよ」
ラル会長の撫でてくれる手は温かく、ぬくもりを感じる。その優しさに僕はしばらくの間甘えていた。張り詰めていた心は自然と解けていった。
「あの…」
「ん?どーしたの」
「先程は、すみませんでした。酷いことたくさん言ってしまって…」
「いいよ。でも、『死にたい』だけは言ったらダメだよ」
「どうして…」
「どうしても。君を守れなくなるから…辛いとかしんどいとか違う言葉で伝えてほしい」
ラル会長の瞳は少し潤んでいて、どこか儚く泣きそうにも見えた。
僕はゆっくりと頷いた。それをみて会長は安心したように笑みをこぼした。
「会長はすごいです。こうやって沢山の人に言葉をかけて救ってきたのですよね」
「ううん。能力のお陰でみんなに尊敬してもらえるけれど…一番大切な人には好かれなかったの」
ラル会長は何かを諦めたように微笑む。その姿は儚く美しかった。その完璧な動作に彼女の能力を思い出す。
もしも、ここが保健室ではなく生徒会室であればラル会長はどんな表情をしただろうか。
あまりに幼い会長と能力で完璧な会長、どちらが彼女の本当だろうか。
最終下校時刻になり保健室を去るその背中を見送りながら僕は今までと違う感情でラル先輩のことを考えていた。
無能力の高校生Aは生徒会長により世界を救うヒーローになる…予定です 紫雨 @drizzle_drizzle
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