第七話 無能力で生き抜く日々 

 翌日生徒会室へ行くと、拍手で歓迎された。まほちゃんが僕の机まで案内してくれ、ラル会長が僕の制服に生徒会バッジをつける。

 サッス先輩は僕に丁寧に仕事を教えてくれた。

 G先生は困った事があればすぐに言うように、と優しく笑ってくれる。

 全てが初めてのことだった。


 何かが変わる音がした。希望の光が僕の惨めな人生を照らしてくれたような気がした。だからこそ、この機会を無駄にはしたくなかった。

 

 生徒会に入った僕の日々は一気に忙しく急速に進んでいった。

 遊んでばかりいるように思えるが生徒会の仕事量は致死レベルだと思う。教員不足が深刻になりつつあるこの頃、その穴を埋める役目を生徒会が受け持っている。野菜を配る余裕のある会長が異次元なのだ。いや、会長だけではない。仕事の半分以上を嫌な顔ひとつせず終わらせるサッス先輩も、高校の勉強についていきながら仕事をこなし遊ぶ時間を生み出しているまほちゃんも、みんなおかしい。

 誰よりも少ない仕事量であるのに、それすら上手くできない自分が嫌になる。

 無能力者であることは生徒会に入ったことで誰も疑いすらしなかった。けれど、実際僕は無能力者なのだ。誰よりも頑張らないと勝てない。G先生に言われたことはよくわかっているつもりだ。

「気楽にいけよ」 

 机にしがみつくように書類と戦う僕をみてサッス先輩は心配そうに僕の肩を軽く叩く。

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 苦笑いを浮かべた先輩は「無理するなよ」と言って立ち去った。

 きっと、慣れたらこのままやっていける。

 きっと、普通に生きることができる。

 きっと、僕だって頑張れば何かを変えられる。

 きっと、いつか先輩方と肩を並べて笑う日がくる


 だから、お願いだから、邪魔しないでくれ。

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