第二話 missionだらけの入学式


 

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!華やかな日々を共に駆け抜け…」

 生徒会長がハキハキと挨拶をする。栗色の長い髪、少し焼けた肌、時折微笑みながら堂々と振る舞うその姿はまさにこの学校を象徴しているかのようだ。

 …なんて考えていられるほど僕に余裕はなかった。

 これから始まる学校生活、こんな僕が平穏に過ごすためには今から対策を練っておかねばならない。

 どうにかして、無能力者であることを隠して生きていかなければいけないのだ。

 

(misson① クラス発表と第一印象)

 クラスに馴染めるかどうかはスタートダッシュに成功するかが鍵となる。

 ここは、誰よりも早く教室へ向かい多くの人に話しかけることで輪を広げておいた。

 ↳若干引かれていたような気もするが…

 たぶんミッションクリア!


(misson② 自己紹介)

 入学式後のホームルームで必ず行われる自己紹介。

 ここで能力について話さなければならないことは予想できた。

 無難な「鑑定スキル」と答えると「よく受かったなー」と野次を飛ばされたが、馬鹿にされたりいじられることはなく受け入れられた。

 ふと聞こえた「生徒会長と一緒じゃん」とつぶやく声は気になるがミッションクリア!


 こうやって僕は残りのmissionもクリアした。それは予想していたよりも簡単に進んでいった。だから、油断していたのだ。このまま今日は乗り切れると思っていた。

 

 事件は六時間目に起こった。

 

 本日最後の授業は、クラスの役職を決めるホームルームであった。役職は全員に用意されていない。つまり成績や内申点などを気にする真面目な子が行えばいい。能力に差が出るこの学校では話し合いもじゃんけんも存在しない。立候補と推薦のみで決められる。僕は傍観者となり恵まれた皆さんを眺めておけばいい。

 

 そう思っていたのに。

 

 いきなり、勢いよく音をたてながら生徒会長が教室に入った。そういえば、生徒会は推薦された者しか入れず役職を決める前に選ばれし者は呼び出されると説明があった。推薦といってもここは自主性を重んじられる学校、推薦されるのは事前に申し込んだ者のみだ。もちろん僕は該当していない。もう一度言う、僕は該当していない。

 それなのに、生徒会長は僕の名を呼んだ。

 全員の視線を浴びていることすら忘れて僕は「へ?」と素っ頓狂な声を上げる。

「天野奏、君を生徒会に推薦します。」

 みんなの前で堂々と宣言された。逃げ場が無くなっていく。

「いや…僕は…」

 そう言って断ろうとした僕の耳元で生徒会長は囁いた、悪魔のような笑みを浮かべて。

「私の能力は鑑定スキル<可能>だよ?」

 その一言は意志の硬い僕を頷かせるには十分の破壊力があった。鑑定スキルの最上級である<可能>は僕の無能力だってお見通しだ。

 こうして僕は生徒会室に連行された。

 

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