迫りくる骨の波! 乗るしかない! このビッグウェーブに! なみのりピカチュウがありなら波乗りマッチョもありでしょ!

「あわわわわわわわわわわ………………」


 ガノンの上スマ食らって星撃墜されるヨッシーみたいな声が震える顎から無意識的に漏れる。俺は思わず目を閉じ、身を固くして縮こまる。


 いかん、トラウマが絶賛発動だ……そういえばヨッシーって一人称「ボク」なんだよな。たまご生むのに。

 ハッ! ポリティカル・コレクトネスの先取り!?

 そういえば日本ってボクっ娘もいるし、性の多様性に昔から寛容だよなぁ……あ、いかんいかん、恐怖にトラウマ発動でついつい現実逃避してしまった。


 今は現実逃避してる場合じゃない。敵の群れは既に眼前に迫っているんだ。つーか既に噛まれてるんだ。

 ビビってトラウマっていられないぞ俺! 戦場でビビったら負けだ。戦場の負けはそれ即ち死だ。

 筋肉は言っている、今はまだ死ぬときではない、と。

 今この危機を乗り越えるには、そして将来一流の冒険者としてツーベンに乗ってザギンでナオンとシースーするためにも、恐怖に打ち勝ち、そして敵を打倒さねばならぬ。


 俺は自分に言い聞かせる。


 頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ! 頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めんな絶対に! 頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! 筋肉だって頑張ってるんだから!


 師炉極を倣って、俺は松岡修造バリに自分を鼓舞する。

 というよりもはや自己暗示だ。でも鼓舞だろうが自己暗示だってなんだっていい。


 そうだ、俺にできること、俺ならできること、そう、それは筋肉だ!(ドンッ!)


 S級冒険者だってそう言ってるし、勇魚の前でカッコ悪いところも見せられないし……!


 勇気がわいてきた。筋肉にも俄然力が入る。全身の筋肉が一瞬にしてムキッと膨張し硬化した。マッスルパンプアップ。それだけで肩に噛み付いていた骸骨犬がキャインキャイン言って弾き飛んでいったのが目を閉じててもわかった。ん……? さっきまでカラカラしか言ってなかったよな? ちゃんと犬らしい鳴き声も出せたのか。ま、どうでもいいけどさ。


 それはそうとして、どうだ? 文字通り、俺のマッスルボディにだろ?


 ちょっと力を込めただけでこれだ。鎧袖一触ってやつだ。何人なんぴとたりともこの鋼の如きマッチョボディを傷つけることはできん。


 フフフ……できる、この肉体なら、きっとなんだって……!


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぅぅッッッ!!!!」


 マッスル雄叫び。

 説明しよう! マッスル雄叫びとはただマッチョマンが雄叫びをあげることである!

 他にも雄叫びを上げることで得られる科学的なメリットがあるがそれは割愛。


 俺はゆっくりと目を開けた。敵を倒すために、敵をこの目で捉え、確実に仕留めるために。


「ん……あらぁ……っっ!?」


 目を開けると目の前には、骨どもが幾重にも折り重なり堆くうずたかく積み上がり、巨大な骨の壁ができていた。


「え、ええぇぇぇ……!!」


 ただの壁じゃなかった。それは津波だった。

 背後の崖の高さと遜色ない巨大な骨津波が俺に容赦なく迫りくる。上下左右、どこにも逃げ場がない。頭上の太陽さえ覆われ、周囲があっという間に暗くなった。背後と地面以外はどこもかしこも骨、骨、骨。


 デカ……! ヤバ…………無理!! 受け止める!? 無事で!? 出来る!? 否……死………。


 死が頭をよぎった。

 俺が念能力者でホワイトゴレイヌがあればこの状況を切り抜けることも出来るが……いや、俺には筋肉がある! 筋肉で乗り切るしかない……乗り切る……? そうだ、それだ! 乗ればいいんだ! 乗るしかないこのビッグウェーブに!


「うぅぉおおおおらあああぁぁぁぁ!!!」


 骨の大津波でサーフィンだ。俺の数少ない特技といえばネットサーフィン。ネットサーフィンもサーフィンも対して変わらないはず!

 それにでんきタイプのピカチュウがなみのりできるなら、ゴーリキー似の俺だってできるだろ!


 俺は骨波にライドオンして波乗りジョニーになるべく、筋肉に物を言わせ迫りくる骨の一つに足をかけた。

 と、瞬間、


 ボキッ!


 骨の折れる音がした。

 もちろん俺の骨じゃない。足をかけたとこの骨だ。


 カルシウム不足か!?

 骨粗鬆症か!?

 骨粗鬆症って言いにくいよね!?

 俺の重厚な筋肉に対し、所詮死体の骨などあまりにも脆過ぎたのか!?


 足場の骨をぶち抜いてしまった俺はすってんころりん、盛大に尻餅をついてしまった。


 直後、頭上から骨の大津波が崩れるように容赦なく覆いかぶさってきた。

 無数の虚ろな眼窩と目が合いまくる。


「ああああ」


 ドラクエで付けられる捻りのない名前のような気の抜けた声が口から漏れた。

 俺は骨の波に飲まれてしまった。

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