次世代覇権ヒロイン勇魚はマジ天使
「皆、準備はいいか?」
パーティリーダー師炉極の言葉に俺を含めた皆が頷いた。
皆と言っても、メンバーは師炉一家と俺のたった四人しかいない。
師炉極曰く、極初期のダンジョンならS級冒険者が二人もいれば余裕なんだそうな。
なのに俺と勇魚を連れて行くのは、やっぱり一献寺香良が前に言ったように俺に箔をつけさせてくれるつもりなのかもしれない。
だとしたら、なんで俺にそこまでしてくれるんだろ?
やっぱり娘の友達だから?
娘の命の恩人だから?
意外に義理堅い人たちなのかな?
おっと、今そんなことを考えてる場合じゃない。ダンジョン攻略前だ。余計な思考は必要ない。ダンジョン攻略に必要なのは冷静さと集中力、そして筋肉だ。
「よし、ではこれより、ダンジョン攻略を開始する!」
師炉極はミッション開始を宣言するとモノリスに触れ、ダンジョンへと入っていった。参甲小百合子も続く。
「いよいよだね」
勇魚が少し緊張の面持ちで言った。それでも彼女は俺に小さく微笑んでくれた。自分も緊張しているのに俺の緊張を解そうとしてくれる彼女の気遣いが嬉しい。
やっぱ勇魚はマジ天使だ。天使だからこんなに人に優しくできるんだろうな。俺も勇魚を見習って
「ああ、いよいよだな」
「安心して、能見くんは私が絶対に守るから」
綾波レイみたいなことを言う勇魚。セリフといい、かわいさといい、これもう第二の綾波レイだろ。勇魚が社会現象覇権ヒロインになる日も近いなこれは。
だけど、守ってあげるって言われて喜んでばかりじゃダメだよな。男がすたるよ。しかも俺はただの男じゃない、ゴリゴリのムキムキのガッチガチのマッチョだ。この筋肉はなんのためだ? 人を守るためだろう? 愛ってなんだ? ためらわないことだろ? あのヒョロガリの碇シンジだって男を見せたんだ。なら俺だって、
「俺が勇魚を守るよ」
俺はマッチョスマイルで言った。漫画とかアニメなら歯がキラーンてなるアレだ。人生で初めて女の子相手にかっこつけたわりには上手くできたと思う。
なぜなら勇魚が顔を真赤にして照れてるから。
「うん、ありがと……」
はにかむ勇魚に俺も照れてはにかんだ。
「能見くんって、なんか急にかっこいいよね。私、本当に本気に……」
「えっ……?」
「あ、待って! 今のナシ! じゃ、私先に行くから!」
なにやら焦った様子で勇魚はダンジョンへと入っていった。
ポツン、と一人残される俺。
あるぇ? ひょっとして今、イイ雰囲気だったりしちゃったりしてたり……!?
アカン、なんかドキドキしすぎて日本語がおかしい。
でもでもさ、今、絶対にイイ感じだったよね?
なんかほら、漫画とかアニメとかラノベとかでありそうな感じじゃなかった!?
あの照れて先にどっか行っちゃう感じ、ラブコメとかでよくあるよね!?
ラブコメの波動、観測されてたよね!?
いや、待て待て待てのマテマティカ! 冷静になれ俺。それはあくまでフィクションの話だ。現実にそんな嬉し恥ずかし照れくさい甘酸っぱいザ・青春なシチュエーションがそんな都合よくあるわけない。
うん、あり得ないあり得ない。学校一の美少女が俺に……なんてそんな都合と調子が良すぎる話、あってたまるか。素人の書いたweb小説じゃないんだぞ。それに綾波レイだって、あの時点では明らかに碇シンジに対して恋愛感情を持っていなかった。
ただ女の子に、それもちょっと学校一かわいい美少女に守ってあげるって言われただけで何を舞い上がってるんだ俺は!
あっぶねー、危うく調子にライディングして盛大に事故るとこだった。
「事故はほら起きるよー調子にー乗ってるとー」ってきかんしゃトーマスの歌でもあるし。そういえばトーマスのチューイングキャンディ無くなったんだってね。あれ結構好きだったのに。
漫画、アニメ、ゲーム、そしてラノベから多くのことを学んできた俺だが、ちゃんと
というかつかないとヤバいでしょ。マッチョだし。現実と虚構の区別がつかない夢現のマッチョなんて怖すぎるもんな。
マッチョたるもの、やはりいかなるときも落ち着いていないとな。うん、良い学びになった。やっぱ舞い上がってるマッチョはダメだよ。バカみたいだし、絵面的にもアレだし。
多分、勇魚は思わずかっこいいって言っちゃったから照れただけだろう。うん、多分そうだ。冷静になってみるとそうとしか思えないな。そうだよな? 筋肉よ。俺は二頭筋をパチパチ叩いた。ボコンボコンと収縮し、筋肉もそうだそうだと言っています。
さて、調子に乗ることなく現実をちゃんと見ることのできるハードボイルドのごときリアリズムマッチョの俺は颯爽とダンジョンへと突入するのであった。
モノリスにさっと触れる。キィィィン……と鈴の音ような音、マッチョボディはモノリスの中へと吸い込まれた。
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