ステータス、バグってね?
気の優しいやつらばかり揃った良いクラスだけど、そこまで気を使われるのはかえって良い気はしない。
それはそれで一種のハブだ。ハブられて嬉しいやつはいない。
それに俺のステータスも別にそんな酷いもんじゃないと思う。むしろちょっと凄いことになっている。
能見琴也
レベル:1
クラス:???
ステータス:異常なし
体力: 99120034
スタミナ: 88770122
魔力: 0
物理攻撃力:100064321
魔法攻撃力: 0
物理防御力:103687771
魔法防御力: 0
スキル:<魔法不能症>?
体力とスタミナと物理が見たこともない桁になってる……えーっと、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんまん、い、いちおくっ……!?
俺、いつの間にかそんなに強くなってたの!?
いやいや、そんなわけない! チートか?
いやいやいや、チートなんてゲームだけの話で、現実にそんな便利なもんはない。
ひょっとして
だってこんな異常値見たことない。一度石舟先生のステータスを見せてもらったことがあるが、Bクラス冒険者の先生でさえステータスの最高値は魔法攻撃力のギリ四桁だったと記憶している。
一応、デバイスの自己診断機能を使ってみる。機器の物理的故障や内部的エラーも無いと出た。
じゃ、この前代未聞の異常値がマジのガチで俺のステータスってこと? にわかには信じられない。
それにスキルの<魔力不能症>のところに ? がついているのも気になる。
たしかに俺の肉体はデジモンかたまごっち並の超進化したけど、だからってたった一週間の筋トレでここまでステータスが変化するだろうか?
いや、たしかに一週間の筋トレで見た目はすごいことになったよ?
一般チビガリ高校生が一夜にしてシュワちゃんになったよ?
でも、それでここまでステータスがめちゃくちゃに変化するとは思えない。そんなの見たことも聞いたこともないし。
前にステータスを見た時、二週間とちょっと前だったともうけど、そのときは魔力関係以外のほぼ全てのステが二桁だったんだよ? それにレベルも1のままだ。
こんなのチートかバグじゃないとありえない。前者はありえないからバグの疑いが濃厚だ。
とりあえず石舟先生に申告しときましょう。
「あの、先生」
「なぁに? 能見くん」
「俺のステータス、バグってるみたいなんですけど、ちょっと見てもらっていいですか?」
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……!? じゅうまん、ひゃくまん、せんまん、おく……あらあら、たしかにこれは変ですねぇ。以前の能見くんの計測値とは全然違いますし。診断機能は使ってみましたか?」
「使っても異常なしなんです」
「そうですかぁ。未知のバグでしょうか、表示がおかしくなってる可能性がありますね。一応、今日の授業先生の側について見学しててくださいね。魔力不能症もありますから、しばらく様子を見ましょうね」
俺は素直に頷いた。
正直なところ、ダンジョン冒険の授業を見学するのは残念だ。
今までだって魔力が覚醒めていないのを理由に見学ばかりだったし、そろそろちゃんと授業に参加したかった。
やっぱりちゃんと授業に参加しないことにはダンジョン冒険者にはなれないからね。
かと言ってバグったステータスを信用してモンスターと対峙するのは愚の骨頂だ。
これがもしバグじゃなく、正真正銘の実数値だったなら全然問題ないんだけどな。
魔力関係は終わってるが、他の数値はおそらく桁違いの圧倒的世界最強クラスの物理アタッカー超弩級脳筋野郎だ。まず廃ダンジョンの魔物に手こずることはない。
しかしそんな都合の良い話は現実にはない。
ちょっと前までステータスの最高値が二桁だった男が、筋トレだけでこんなアホみたいに飛び抜けたステータスを手に入れられるなんてそんなバカな話あるわけない。
きっとデバイスの異常だろう。石舟先生もそれを疑ったから、俺に見学を言い渡したんだろう。
見学は残念だけど、ま、いいさ。
今の俺は筋トレのおかげで心が落ち着いているせいか、非常におおらかな気持ちでいられている。それに見学でもやれることはある。
それは筋トレだ。冒険できなけりゃ筋トレすればいいじゃない!
ってわけで早速石舟先生の隣で俺はスクワットを始めた。
石舟先生はそんな俺を横目でチラッと見て微笑んだ。
そう、たとえ見学でもやれることはあるんですよ。能見くんは能見くんなりに頑張れば良いんです。先生は応援していますよ、そう言っているような優しい微笑だった。
「はぁ~い皆さ~ん、ステータスは確認できましたか~? ステータスに問題ある人は先生のところで見学ですよ~。問題なかった人はパーティを組みましょう~。パーティはバランス良く安全重視、が基本で~す。最低一人は回復役を、もう一人サブの回復役を、あと物理アタッカーと魔力アタッカーを一人ずつ入れるのが最も良いとされていますね~。アタッカーが
石舟先生が声を大にして言った。どうやらステータスに問題があったのは俺だけで、他のクラスメイトは滞り無くパーティを組んだ。
先生はパーティを一つ一つチェックしていく。パーティのバランスと危険性がないかを先生はしっかりと調べているのだ。ほどなくして全てのパーティのチェックが終わった。
「では皆さん、この『マルモエリア』まで自由行動で~す。エリアからは出ないでくださいね。このエリアの魔物は皆さんのレベルでも簡単に倒せますが、油断はしないでください。油断一秒怪我一生ですね~。もし危険を感じたらすぐに離脱し、他のパーティか私に助けを求めてください。わかりましたか~? わかりましたね~? では、一年C組、ダンジョン冒険訓練を開始しま~す! 制限時間は三十分で~す!」
訓練エリアは半径二キロに満たない狭さだ。モンスターも弱いし、何も問題は起こらないだろう。少なくともなにか起こった前例はない。万が一トラブルがあったとしても、Bクラス冒険者の先生が付いているから大事にはならないはず。
そんなことはクラスメイト全員がわかりきっているから、皆テキトーな雑談をしながらレベリングのために四方八方に散っていった。
「ノーキン、行ってくるわ」
グラがふりふりとこっちに手を振ってくれた。
「ああ、気をつけて」
「ははっ、マルモエリアで気をつけることなんてないけどな」
「あっ、ダ~メですよ~、花神楽くん。油断は禁物、獅子は兎を狩るのにも全力を出すものですよ~。じゃないと痛い目に遭いますよ~」
石舟先生がグラをたしなめるが、そう言う先生こそ声に緊張感がない。ま、それはいつものことだが。
「あ、すんません、先生。ちゃんと気を引き締めて行きますっ!」
へへっ、と照れたように笑って、グラが先生にぺこりと頭を下げた。踵を返して、先行するパーティメンバーの後を小走りに追っかけて行った。
「うふっ、たしかに皆さんにとっては物足りない授業かもしれませんねぇ。でもね、幾重にも安全に安全を重ねるのが冒険者にとって一番大事なことなんですよ。死んじゃったらそこで一巻のおしまい、人生の打ち切り、二巻は始まりませんから、ね、能見くん?」
石舟先生は不意に俺の方を見て、いつもの優しい微笑を浮かべた。
俺は一旦筋トレを止めて、先生の言葉に深く大きく頷いた。
全冒険者の一桁%しかいないBクラス冒険者の先生も言うんだから間違いない。ギルドの指針でも慎重であるべしとある。
さらに言えば石舟先生はただの冒険者じゃない。冒険者かつ俺たちの先生だ。生徒たちの命を預かっている身分だから、より慎重に、より安全を深く追求するのは当然のことで、そのために授業内容が多少ヌルくなるのは致し方のないことだ。
おそらくほとんどのクラスメイトの様子からして誰も先生の想いに気付いていないだろう。
親の心子知らずとは言うが、往々にして子供ってそういうものなんだろうな、なんてちょっぴり大人びちゃったりして。これも筋トレの成果かな? 関係ないか。
かく言いながら俺も、石舟先生の傍で見学する立場じゃなかったら、きっと皆と同じように気楽でちょっと物足りない気持ちになりながら授業を受けてたんだろうな。
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