師炉勇魚は俺とは真逆 2
さて、今俺たち一年C組がいるこのダンジョンは攻略済みの廃ダンジョンだ。
廃ダンジョンは未クリアのダンジョンに比べて得られるアイテムと経験値が少ない代わりに危険もほとんどないから、俺たち学生やビギナー冒険者たちの訓練場所として重宝されている。
「はーい皆さん揃っていますか~? 点呼をとりま~す。雨隈さん。飯友くん――」
石舟先生が点呼を取る。全員ちゃんと揃っていた。
俺を除くクラスメイトたちは皆、それぞれの装備に着替えている。さっきまでの制服姿はどこにもない。
装備は予め<デバイス>に設定しておくことで、ダンジョン入場時に自動的に切り替えられるようになっている。
俺はまだ装備を持っていない。装備はダンジョン内で魔物を倒すことで手に入れるしかないから、俺のような<魔力無能症>の戦闘童貞は裸装備、通称無課金装備にならざるを得ない。
あぁ……俺もいつかバリバリダンジョン攻略して、かっちょいい装備を揃えたいなぁ……。
ま、今の俺にはこの鎧の如き鋼の肉体があるから、以前ほど皆のことを羨ましいとも思わなくなったけどね。
「揃ってますね~。では各自<デバイス>でステータスを確認してください~」
俺はデバイスを開き、自分のステータスをチェックする。ステータスチェックはダンジョンに入る直前と入った直後の二回が基本であり、絶対必須事項だ。
万一ステータスに異常があれば即離脱が基本だ。これは
たとえるなら熱があるときに車の運転をしてはいけないのと同じだ。しかもダンジョンは公道よりよっぽど予測不能な危険がたくさん潜んでいる。たとえデバフ系の軽微なステ異常でも、『事故死』の確率は確実に上がるので、死にたくなければステータス異常には常に注意を払わなければならないのだ。
リアルのダンジョンの『死』はゲームの『死』と違い、永遠の眠りを意味する。復活なんて都合のいい話はリアルにはないし、だからこそ慎重にならざるを得ない。基本を遵守するかさもなくば死、だ。
とは言っても、
「よっちー、私レベル上がったんだよ! 見て見てすごくないこのステータス。超上がってるでしょ?」
「えー、みーちゃん凄いじゃ~ん! あたしもね、新しい<スキル>覚えたんだよ~。ほら」
「ほんとだ~! 風系魔法スキル<ウインドカッター>じゃん! 飛行系モンスター特攻でしょ? めちゃめちゃいいじゃん!」
「まーくん、ステ見せ合おうぜ?」
「えー、ヤだよ。俺全然上がってないもん」
「マジ? あ、ウタオ、お前はどう?」
「僕? 僕はね、うふふ、この前ちょっと父さんとダンジョン潜ってね、レベル上がっちゃったんだ」
「うわ、マジじゃん! ステめちゃバク上がってね!? <ファイアボルト>連続五回撃てんのかよ! おい、みんなも見てみろって!」
皆、緊張感の欠片もなくやんややんやと騒いではしゃいでいる。
ま、廃ダンジョンだし、それも学校の授業でBクラス冒険者の引率付きならこんなもんだ。
どうころんだって危険はないんだから、出発前に先生がどう言ったところで所詮ピクニックでしかない。
皆がわいわいやってる中心に
師炉勇魚はかの<勇者>
日本を代表し世界に冠たる二人の冒険者の実子というだけでも周囲の耳目を集めるには充分な理由だが、人気の理由はそれだけじゃない。師炉勇魚には人気にふさわしい実力があった。
なんと師炉勇魚は十五歳の若年にしてCクラス冒険者なのだ。Cクラス冒険者の高校生なんておそらく世界で百人もいないだろう。しかも彼女の場合、Cクラス以上の試験を受けていないだけで、実力はBクラスに相当するとの噂もある。
冒険者を夢見る俺からすれば、もう羨ましいやら憎らしいやら、正直に言って嫉妬と羨望が止まらない。あーあ、俺もA級冒険者の両親から生まれてきたかったなー。まったく人生って不平等すぎるよな。
そんな偉大な父母の才能を余すこと無く受け継いだ師炉勇魚の剣と魔法の妙技は見るものを圧倒し陶酔させる。
実際にこの目で師炉勇魚の戦闘を見たことがあるが、そりゃもう凄かった。
鋭い剣筋、的確かつ淀みのない<スキル>選択、目にも止まらぬ身のこなしはまさに流麗の一言に尽きる。
流麗なのは戦闘スタイルだけじゃない、師炉勇魚は見た目もまた麗しく美しいのだ。
美人な母親そっくりな整いすぎの顔立ちに、父親譲り凛々しい眼差しが相まって、端的に言えばクールビューティタイプ。クォーターの血筋を象徴する艷やかな銀髪とアイスブルーの瞳はこの世のものとは思えないほど神秘的で、ひと目見たらもう目と心に焼き付いて離れない。
血統、実力、美、三拍子揃ってる。誰もが羨み憧れ、ときには妬み、そして尊ぶべき超上級の
そんな完璧に見える彼女だが、少し気になる点がある。
気のせいかもしれないが、どうやら師炉勇魚はクラスメイトと深く交わりたくないように見える。
話しかければ答えるし、必要とあれば自分から話しかけることもあるけどどこかよそよそしく、ほとんど笑っているところを見たことがない。ただクールなだけか? それとも軽いコミュ障? もしくはそういう性格なだけ?
ま、別に俺が心配するようなことじゃないか。今も師炉勇魚の周りには人が集っている。彼女自身はほとんど何も喋っていないのに、皆自然と彼女に近づいていく。カリスマってやつかな? 人を惹きつける魅力ってやつか。
師炉勇魚が魅力的なのは今更だ。それは俺だって認めている。
けど、俺はなんとなく皆みたいに近づいていけない。どこか近づきがたく感じてしまう。女の子だし。美人すぎるし……ん? あれ? ひょっとしてコミュ障なのは俺のほう?
そういえば師炉勇魚はクラスメイト全員と別け隔てなく話ているような気がする。あのグラもたしか話したことがあるって言ってた……じゃ、俺だけか!? 師炉勇魚と話したこと無いの!
いや、そんなことないだろ。師炉勇魚は物静かで感情の起伏も薄いから、きっと話したときの印象も薄いせいで思い出せないなんだろう、そう、きっとそうだ……。
なわけない。あんな美人と話したことがあったら、一生の思い出モンだもんな。
はぁ……真のコミュ障は俺でした、と。
でもさ、しょうがなくない? 美人の女の子ってやっぱり近づきがたいじゃん?
そんなコミュ症の俺はクラスメイトたちが楽しげにしているのを遠巻きに眺めていた。いわゆるボッチ。
だが、理由はコミュ障じゃない。俺の<魔力不能症>は既に皆の知るところで、誰もが俺に気を使って話しかけてこないせいだ。
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