陽だまりのカフェテリア 2人用台本

ちぃねぇ

第1話 陽だまりのカフェテリア

登場人物

佐紀(さき):ビルから飛び降り自殺を考えていた女

麗奈(れいな):令嬢で会社経営者、ビルの所有者




0:ビルの屋上、フェンスを越えようとしている佐紀に声をかける麗奈


麗奈:あの、もし?

佐紀:え

麗奈:そんなところにのぼったら危ないですよ

佐紀:あ…

麗奈:おやめになって?

佐紀:…

麗奈:もしかして、飛び降りる気でいらっしゃいます?

佐紀:…だったら何よ

麗奈:それはやめていただきたいのですが

佐紀:そんなことあんたに関係ないじゃない、ほっといてよ

麗奈:関係はあるのですよね

佐紀:はぁ?

麗奈:わたくし、このビルの所有者なのです

佐紀:え

麗奈:いわゆるオーナーと言いますの?そんな感じなので、あなたに今飛ばれてしまうと、必然、関係せざるを得なくなってしまいますわ

佐紀:あ…

麗奈:それに、ご存じ?事故死のいわくつきの物件の価値がどうなるか…ああ、わたくしとっても困ってしまいますわ

佐紀:…すみません

麗奈:ということで、こちらに来てくださる?

佐紀:はい…


0:フェンスから離れる佐紀


麗奈:ああよかった、ドキドキしましたわ

佐紀:あなた、本当にここのオーナーなんですか

麗奈:ええ、身分証をお見せしますわ、パスポートでいいかしら?あとで市役所で登記でも確認してくだされば

佐紀:(被せて)いや、いいです

麗奈:ところで、あなたの身分証を見せてくださる?

佐紀:え?

麗奈:自殺自体は未遂であったにせよ、このビルは基本関係者以外立ち入り禁止、不法侵入には変わりませんもの。あなたのお名前が知りたいの

佐紀:警察に突き出すつもりですか

麗奈:いいえ、ただあなたがどちらのお嬢さんなのか知りたいだけ、ただの野次馬根性ですわ

佐紀:お嬢さんって…あなた私とそう歳変わらないでしょ

麗奈:そうね、あなたはおいくつかしら?わたくしは27なんだけど、もしかしたら同級生かしら?ああ、それも身分証を見ればわかることね

佐紀:……

麗奈:もちろん立場上法的に対処して、強(し)いることも可能だけど、できたらあなたの意思で見せていただけると嬉しいわ

佐紀:脅しじゃん…(免許証を見せて)どうぞ

麗奈:ありがとう、ちょっとお写真撮らせていただきますね

佐紀:え?!

麗奈:(にっこり笑って)なにか?

佐紀:いえ、なんでも


0:免許証を撮って佐紀に返す麗奈


麗奈:木村佐紀(きむらさき)さんとおっしゃるのね。歳は25、わたくしの二つ下なのね

佐紀:はい

麗奈:名前に色が入っているなんて可愛らしいですわね、黄紫…どんな色かしら

佐紀:(嫌そうに)ほんと、もっとちゃんと考えてつけてくれればいいのに

麗奈:ああ、このお名前、嫌いなのかしら。ただ可愛らしいと思っただけなの、気分を害してしまったらごめんなさい

佐紀:別に…

麗奈:あ、一方的にお名前を聞いてしまってごめんなさいね、わたくしは友崎麗奈(ともさきれいな)と言いますの

佐紀:はぁ

麗奈:わたくしの苗字にも同じ「サキ」が入っているのよ、なんだか運命的ね

佐紀:そうですか?

麗奈:ええ、とても運命的。ああそうだ、ここでお会いしたのも何かの縁だわ、佐紀さん今からお時間ある?これからお茶しませんこと?

佐紀:…はい?


0:カフェにて


麗奈:佐紀さんはどれになさいます?わたくしはこの季節のフルーツタルトにしようと思うのですけど

佐紀:いや、私は

麗奈:どうかされました?

佐紀:お腹、空いてないんで

麗奈:じゃあお飲み物は?

佐紀:(メニューを見て小声で)一杯1000円…

麗奈:ああ、もしかして支払いのことを気にしています?大丈夫ですわ、もちろん全てわたくしが持ちますから

佐紀:いや、ダメでしょ

麗奈:どうして?

佐紀:どうしてって

麗奈:無理にお誘いしたのはわたくしですもの、このくらい当然ですわ。で、佐紀さん、佐紀さんは甘いものはお嫌い?

佐紀:好きですけど

麗奈:お腹はケーキ一つも入りませんこと?

佐紀:…入りますけど

麗奈:じゃあ食べましょう、一人で食べても美味しくありませんわ、どうぞお付き合いくださいませ

佐紀:はぁ…


0:数分後、注文の品が届く


麗奈:可愛らしいですわ、テンション上がりますわね!

佐紀:はぁ

麗奈:ああもう佐紀さん、わたくし壁にお話しているんじゃありませんの、投げたボールはちゃんと返してくださいな。今から「はぁ」は禁止ですわ

佐紀:はぁ…あ

麗奈:佐紀さん?

佐紀:…わかりました

麗奈:よかった。じゃあ早速いただきましょう

佐紀:(一口食べて)美味しい…

麗奈:でしょう?ここのケーキはどれも絶品ですの

佐紀:こんなに美味しいケーキ、初めてです

麗奈:それはよかったわ


0:しばらく黙々とケーキを食べる二人


佐紀:…聞かないんですか

麗奈:なにを?

佐紀:どうして自殺なんてしようとしたんだ、って

麗奈:そうですわねぇ…確かに気になりますけど、話したくないことは誰にでもありますから。それに、生きていればそういう衝動に駆られる時だってありますわ

佐紀:…あなたには無さそうですけどね

麗奈:あら、そうかしら

佐紀:ええ、見ず知らずの不法侵入者にこんな高いケーキと紅茶を奢ってしまえる人には絶対、私の気持ちはわかりません。お金に苦労したことないでしょ、あなた

麗奈:確かにお金には不自由していませんけど…それだけで人生全てを幸せに送ることなんてできませんわ

佐紀:できますよ。お金があれば、大抵のことはカバーできるんです

麗奈:大抵、ね。確かに大抵はそうですわね

佐紀:まるで例外を知ってる、みたいな口ぶりですね

麗奈:…余命3か月

佐紀:え

麗奈:もし、わたくしがそうだって言ったらどうします?どんなにお金があっても、医療にも人の免疫力にも限界がありますわ

佐紀:麗奈(れいな)さん…

麗奈:初めて名前を呼んでくださいましたわね、嬉しいわ。ああほら、そんな顔しないで、まだケーキが残っていますわ、食べて食べて

佐紀:…ごめんなさい

麗奈:それは何に対する謝罪ですの?

佐紀:何にも知らずに土足で踏み入れて

麗奈:人にはそれぞれバックボーンがありますから、次から気を付ければいいだけですわ

佐紀:…私、借金があるんです

麗奈:おいくら?

佐紀:400万

麗奈:あらまあ、結構な額ですわね。お作りになったのは佐紀さん?

佐紀:いいえ。結婚を約束してた人にある日突然有り金全部持って逃げられて、キャッシングであちこち借金まで作られて…おまけに外面(そとづら)はよかったせいで、会社とか友達にもあることないこと言いふらされて

麗奈:そう

佐紀:もうなにもかも全部嫌になって、だから私…本当にすみませんでした

麗奈:紅茶、お代わり淹れますわね

佐紀:(涙ぐんで)はい

麗奈:佐紀さんは今、どんなお仕事をしてますの?

佐紀:あ…今は一応秘書業務を…でももう多分、無理ですけど

麗奈:あることないことのせいかしら?

佐紀:はい。秘書なんて立場の人間、信用第一ですから

麗奈:じゃあ、うちの会社にいらっしゃらない?

佐紀:え

麗奈:わたくしちょっとした会社を経営しているのだけれど、ちょうどこの間、秘書課の方が寿退職をされて次の方を探していたの。お給料は保証するからどうかしら

佐紀:…いいんですか

麗奈:ええ、ここでお会いしたのも何かの縁だもの。時々こうしてお茶にも付き合ってほしいし、佐紀さんさえよければぜひ

佐紀:そんな…私にはもったいないお誘いで

麗奈:よかったわ。従業員もお友達もできるなんて、今日はとてもいい日ね。あ、お友達ってことでよかったかしら?

佐紀:(泣きながら)はい、私なんかでよければ、はい…

麗奈:泣かないで佐紀さん、ケーキが塩味になってしまうわ

佐紀:はい…


0:20分後


麗奈:そろそろ行きましょうか

佐紀:はい。あの、本当にここの会計お任せしてしまっていいんですか?

麗奈:ええ、お金だけはあるもの

佐紀:すみません

麗奈:ああ、あてこすったわけじゃないのよ、謝らないで

佐紀:あの、麗奈(れいな)さん

麗奈:なぁに?

佐紀:余命って、あくまで平均だと思うので

麗奈:?

佐紀:医者が3か月って言ったって、事実その何倍も生きた人だっています!だから

麗奈:…ああ!ふふふ

佐紀:え、あの

麗奈:ああ、ごめんなさい。佐紀さんはとてもいい人ね。だけど一つ忠告しておくわ、簡単に人を信用するとまた痛い目に合うわよ?そこにはちゃんと根拠がなくては

佐紀:え…

麗奈:わたくし、健康診断は常にオールA判定ですのよ!

佐紀:え、じゃあ余命3か月って

麗奈:仮に、そうだとしたらというお話をしたまでですわ

佐紀:麗奈さん!

麗奈:ふふ、お友達に心配されるのも怒られるのも、こんなに楽しいものだなんて知らなかったわ

佐紀:…もう!私、ほんとに…もう!

麗奈:そんなにむくれないで?謝るわごめんなさい、仲直りしましょう?

佐紀:仲直りって子供ですか!

麗奈:ふふ、お友達と喧嘩したのも、もちろん仲直りも初めてよ。とてもくすぐったいわね

佐紀:そうですかっ

麗奈:そうだ、今日はこのままショッピングにしましょう、佐紀さんのスーツもだいぶくたびれているようだから新調しないといけないし♪

佐紀:楽しそうですね

麗奈:楽しいわ、だって今日は初めて尽くしなんですもの!お友達のお洋服を見る日が来るなんて

佐紀:浮かれてるとこ申し訳ないんですけど、私お金持ってませんよ

麗奈:わたくしが出すわ

佐紀:それはダメでしょ

麗奈:どうして?お金ならあるわよ?

佐紀:…友達にはたからないものです

麗奈:どうしましょう、わたくし佐紀さんが大好きになってしまいそう

佐紀:(ため息)…麗奈(れいな)さんだって、いい人すぎますよ

麗奈:そう?

佐紀:ついさっき知り合った人間に職あてがっていろいろ世話して、私が大悪党だったらどうするんですか!

麗奈:大悪党!可愛過ぎるわ佐紀さん

佐紀:あーもう!人を信用しすぎたらいけないんですからね!

麗奈:…佐紀さん?お金があれば大抵のことはカバーできるのよ?

佐紀:え?

麗奈:例えば、わずか30分の間に腕のいい調査会社に依頼してその人物の経歴を調べてもらうこと、とか。身分が割れていたら30分でもおつりが来てしまうかもしれないわ、その間に美味しいケーキとお紅茶もいただけそうね

佐紀:それって

麗奈:ごめんなさいね、これは小さな頃からの自衛の手段だから許してほしいわ。お金目的でわたくしに近づく人は山ほどいたから、新しい人に会ったらまずは調査を入れることにしているの、もう癖のようなものね

佐紀:……

麗奈:佐紀さんは誘い水があったからとは言え、自らバックボーンを話してくださったわ。もちろん、わたくしの調査通りの発言を。わたくしは根拠をもって佐紀さんを信用したから、会社にお誘いしたの。だって、産業スパイなんか雇ってしまって会社が潰れでもしたら、従業員の生活が成り立たなくなってしまうもの

佐紀:そこはちゃんと経営者なんですね

麗奈:ええ、上に立つ者には下の者を守る義務があるもの

佐紀:参りました

麗奈:ということで、ショッピングに行きましょう?お金のことが気になるならお給料の前借ってことにしましょう?

佐紀:私の給料から出るなら、麗奈(れいな)さん行きつけのお店とか却下ですからね!ド庶民のお店にお連れしますから!

麗奈:まぁ!うふふ、とても楽しみだわ!今日は最高の一日ね!

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陽だまりのカフェテリア 2人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

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