第8話 蜜

ー第2階層ー

シノは昨日カインがとってきた卵と水、小麦粉をボウルに入れて混ぜ合わせる。

それを大きなスプーンですくい、熱したフライパンに丸く広げて焼いていく。


ミリヤはその様子を食い入るようにみていた。


丸く広げられた生地にぷつぷつと泡がでできたところで、フライ返しでそれを手際よくひっくり返す。まるで満月のような形だ。


「はい、パンケーキだよ。本当は牛乳があればもっと良かったんだけどね」


シノは皿に丸い狐色のパンケーキを重ねて盛り付けて机に置く。


「仕上げはミリアにお願いしようかな」


彼はそう言うと、木のスプーンをミリアに渡してにっこりと微笑む。

彼女は彼の意図を理解すると、自身の持っていた木の葉包にスプーンを入れて、その中の黄金の蜜をパンケーキに回しかけた。


鎌蜂デスサイズビーのハチミツパンケーキの完成!召し上がれ」


ミリアはワクワクした様子でナイフを入れる。とろりとした蜜がパンケーキからこぼれ落ちる。ゆっくりと口に運び、目を閉じてじっくり味わう。


「お、美味しい〜!」


彼女は両手を方にあてて、うっとりとした顔をする。続いてカインとシノも同じように口に運ぶと目を輝かせた。


「本当だ、すっごく美味しい!普通のハチミツよりも甘くてコクがあるのに全然くどくない」


シノの言葉にカインも同意するように首を縦に振る。どうやらとても気に入ったようだ。3人はパンケーキをあっという間に完食するのだった。


「こんなに美味しいもの食べたの久しぶりだな。いつもパサパサの携帯食料とか狩った魔獣そのまま食べてたし」

「お料理しないの?」

「私料理下手なんだ」


ミリアはそう言って明るく笑うと、隣に座るシノに抱きつき、彼の頭をわしゃわしゃと撫でる。シノは突然の彼女の行動に顔を赤くして慌てふためく。


「ちょっとミリアやめてよ〜」

「カインは良いなあ、こんな可愛い女の子が美味しい料理作ってくれるなんてさ」

「...こいつ男だぞ」

「え?」


ミリアは抱きついたまま彼から少し離れてその顔を凝視する。白くてすべすべした肌、長いまつ毛、細い首...どうみても顔は女の子だった。


「まあ、可愛ければどっちでもいいよね」

「は、離して」


ミリアは再び彼にぎゅっとくっつくのだった。カインはシノが助けてくれと目で訴えてきているのに気がつき、力づくで2人を引き剥がす。ふと、遠くからミリアの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。彼女はその声を聞くとびくりと肩を震わせて、さっきまでの明るい顔を曇らせた。カインがその様子の変化に気がつき声をかける。


「おい、お前どうしたんだ」

「...ごめん私そろそろ仲間のところに帰るね!」


彼女は明るい声でそう話したが、その表情がひきつっていたことをカインは知っていた。突然立ち上がった彼女に向かってシノは声をかける。


「仲間がミリアを探しにきたんだ。良かった」

「うん!2人ともありがとう。またね」


ミリアは微笑むと、林に駆けて戻っていくのだった。


「元気な人だったね」

「...」


シノはそう呟くと、荷物を片付けて出発する準備をし始める。

しかしカインは何か違和感を感じ、じっと彼女の後ろ姿を見つめているのだった。



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