第7話 出会い

ー第2階層ー

2人は中心部に向かう途中で、何体もの探索者シーカーの亡骸を見た。昨夜のように、肉食の蟲に喰われてしまったのだろう。血液の海に浮かぶ、契約主のいなくなった銀の弾丸シルバーバレットは鈍く光を反射していた。


「第1階層とは大違いだね」


シノは俯いて呟く。これでもまだ第2階層、楽園アヴァロンを進めば進むほど魔獣や天魔は強大になっていく。もっと沢山の人が命を落としていくだろう。


「怖気付いたか?」

「...まさか」


カインが普段よりも静かなシノを案じてそう問いかける。しかし、彼は強い意思でそれを否定して、胸にかけてある彼と同じ瞳の色のペンダントを握る。


「ボクは帰れない。目標を達成するまでは」

「そうかよ」


シノはくるりと回るとカインの頬を指でぷにと突き刺す。


「それに、カインを1人になんてできないよ。キミは口下手だし、よく後先考えずに行動するし、何より料理できないしね!」

「おい、俺のこと貶しすぎだろ」


シノはいつもの様子を取り戻したようで、イタズラっぽい笑みを浮かべてカインに向かって舌を出す。カインはいつもの調子の彼を見て安堵するのだった。


しばらく歩くと、木々が開けて川辺に出た。羅針盤タクトを見るに、どうやらここを渡らないといけないようだ。幸い水深はあまり深くないので、全身濡れるという事態は避けられそうだ。カインは川に足を入れると、そこまで冷たくない水温に安堵した。シノに来て大丈夫だと伝えようとした時、後ろからブーンといった凄まじい音の羽音が聞こえてきた。


「な、何の音?」


2人は今まで来た林の方を見ると大きな虫の大群に追いかけられ、こちらに向かってきている人が見えた。どうやらその人は彼らと同じくらいの年齢の女だった。悪い気配を察し、カインはシノに叫ぶ。


「俺の後ろに来い!」

「う、うん」


カインは”炎天”を発動させて、こちらに向かってくる虫の大群に向かって刀を構える。息を深く吸い、力を込めてその刀身に炎を纏わせると、さらに奴らが近づいてくるのを待った。頃合いになるとカインは女に向かって叫ぶ。


「避けろッ」


女はカインの声に頷くと軽い身のこなしで右に逸れた。

カインは刀を下段の構えから円を描くように振り上げる。たちまち炎は太刀筋通り丸く燃え上がり、彼らを守る盾のようになった。


炎の盾にぶつかった蟲は短い断末魔をあげて次々と焦げ落ちていく。その炎の勢いは凄まじく、群れの半分が焦げたところで、残党は踵を返して森の中に戻って行ったのだった。カインが息をついて炎天を解除すると、さっき逃げていた女がカインの手をぎゅっと握った。カインはギョッとした顔で少し高い位置にある彼女の顔を見る。


「助けてくれてありがとう!」

「...離してくれ」


カインの声は届かなかったらしく、手は握られたまま彼女はにっこりと微笑んだ。

サラサラと腰まで伸びたアッシュピンクの髪、長いまつ毛に縁取られたガーネットのような大きな瞳、白い肌...誰が見ても美少女だと答えるような容姿をしていた。さらに、身長はカインの頭約1個分大きくスタイルが良かった。


「私はミリヤ。あなた達は?」


カインは無理やり自分の手を彼女から引き離すとそっけなく名乗る。


「...カイン」

「ボクはシノ。よろしく」


シノとミリヤはにこやかに握手を交わす。


「ところで、ミリヤは何で蟲に追いかけられてたの?」

「実は鎌蜂デスサイズビーの幼虫を食べてみたくて、彼らの巣を見つけたからちょっかいを出したんだ。そしたら怒らせちゃって」


ミリヤは苦笑いすると手のひらほどの大きさの焦げた蟲の死骸をひっくり返す。確かに焦げてしまってはいるが、蜂の形をしており、その前足は大きな鎌の形をしていた。


「でもね、ちゃんと成果はあるんだ」


彼女はそう言うと、バックパックから葉の個包を取り出した。シノは何が入っているのか気になり、興味津々にミリヤの手元を覗き込む。彼女が葉を開いていくと、そこには黄金色に輝く沢山のミツが入っていた。


「わぁ〜綺麗」


シノが目を輝かせてその黄金色の液体を見る。


「鎌蜂のハチミツだよ。ちゃんと取れたんだ。一緒に食べよう」

「...良いのか?」

「もちろん!礼もしたいから食べてよ」


シノはその言葉を聞き、礼を述べるとウキウキとした様子で調理器具を広げ始めるのだった。

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