第6話 残酷
ー第2階層ー
いつも通りカインが火を起こし、シノが料理をする。
カインはシノに「卵を調達してほしい」とお願いをされたので、近くの木の上に登って鳥の巣を探していた。辺りを見回すと隣の隣の木に鳥の巣が見えたので木々を飛び移りその巣を覗き込んだ。そこには色とりどりの8つの卵が入っていた。
「半分もらうぞ」
カインはここには居ない親鳥にそう呟くと、半分の数の卵を頂戴した。卵はすっぽりと握れるくらいの大きさでツルツルとしていた。卵を抱えてシノの元に戻ると、彼は一角獣の肉をダイス状にカットしていた。
「卵あったぞ」
「ありがとう! 後少しでできるからちょっと待っててね」
シノはボウルに肉、持参したエシャロットとニンニクのみじん切り、調味料を入れて混ぜ合わせる。塩と胡椒で味を整え、味見をして頷く。お皿にその肉を丸く盛り付け、その中心に卵の黄身を落とし入れて、カインの前に差し出す。
「一角獣のタルタルだよ。召し上がれ」
2人は一緒に手を合わせて「いただきます」と言うと、タルタルに手をつけた。一角獣の肉はとてもさっぱりとしていてスルスルと喉を通って行った。てっぷりとした卵の黄身を崩し、肉に絡ませて食べると濃厚になってさらに美味しかった。
「新鮮なお肉だったから、タルタルにしてみたんだ。美味しい?」
「すごく美味しい」
「よかった」
2人で食事を続けていると、近くで誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「...悲鳴?」
「見てくるからお前はここで待っててくれ。何かあったら叫べよ」
カインは食べ途中であったが、中断してその鳴き声の正体を探しに行くことにした。しばらく音のする方へ歩いていくと、木の下に座り込み鼻を啜る男が座っていた。
「どうしたんですか」
「うわっ!...って
気弱そうな男は顔をゴシゴシと拭うと大きな丸メガネをかけた。
「1人なんですか?」
「いや、本当はあと2人居たんだけど、突然長い魔獣に襲われて...それで心細くて、僕...」
「魔獣?...まあひとまず良かったら俺らのところ来ませんか?すぐそこでキャンプしてるんで」
カインは今にも泣き出しそうな男性に手を貸して立たせる。背がひょろりと高い男性だった。
「君たちは19歳なのか...立派だなぁまだ若いのに。僕なんて30歳なのにこんな腰抜けで」
「魔獣に襲われれば誰でもそうなりますよ」
1人だけ残ってしまった罪悪感からか、男性は非常に落ち込んでいた。口下手なカインはどう受け答えすれば良いかわからず、気まずかった。が、その静寂をシノの悲鳴が引き裂いた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
「シノ!アンタ走れますか?」
「えぇっ?」
カインは困惑する男を置き去りにして、シノの元へ駆け出した。開けた場所に出ると、シノが3匹の巨大なムカデ型魔獣に追い詰められているところだった。
「お、おっきい...無理い」
シノは顔を真っ青にし、ライフルで迫ってくるムカデの頭を必死に叩いているが、ダメージは全くと言っていいほど入っていなかった。カインも|”炎天”を発動し、刀に変形したそれでムカデに斬りかかる、が刃は通らず弾き返されてしまった。
「この蟲の外殻、すごく硬くて銃弾も通らなかったんだ」
「刃が無理なら炎はどうだ」
カインは刀に炎を纏わせてムカデ達のいる辺りの草に火をつける。ムカデたちは一瞬たじろいだが、体を丸めて防御姿勢を取って火に耐えていた。しかし、丸まって動かなくなったのを好機だと判断し、2人は急いで荷物をまとめてその場から逃げ出した。
逃げている途中でカインが先ほど見つけた男が地面に座り込んでいた。どうしたのかと声をかけても魂が抜けたかのように返事がない。彼が正気のない目で見つめている先を見ると、そこには先ほどまで人の形をしていただろう肉の塊があった。無惨に骨や衣服が散乱し、彼らのものであろう銀の弾丸が2丁地面に落ちていた。
「おい、アンタ早く逃げろ!あいつらもすぐ来るぞ」
「...ぼ、くが弱...かったからみ、んな...」
カインが男の肩を激しく揺さぶるが、
背後からカサカサと大きな音を立てて、ムカデが近づいてくるのがわかった。
「早く立ってくれ」
カインは無理やり男を立たせたが、ムカデはそぐそこまで近づいてきている。すると突然男はカインの腕を振り解き、迫り来るムカデに向かって手を広げた。
「ぼ、僕を食べてくれ!僕をあいつたちと同じところへ連れて行ってくれぇ!」
彼は仲間の無惨な死体を見て気が狂ってしまったのだろう。刹那、男は巨大なムカデに巻きつかれて食べられ始めた。バキバキと骨が砕かれる音が聞こえてくる。2人は男がもう助からないことを悟り、振り返らないようにその場から駆け出した。
「うわぁぁぁッゴフッ」
遠くで男の断末魔が聞こえてくる。彼らが
カインとシノは取り乱したりはせず、表情を固くして走った。孤児の彼らにとって人に死は身近なものだった。栄養失調で死んでしまった人、争い事に巻き込まれて殺された人、世を憎んで自殺をした人...彼らは若いながらにして沢山の死に出会ってきた。人の死は慣れないものであるが、そこで悲しんで立ち止まってはいけないことを知っていたのだった。
立ち止まらず進み続け、禁断の果実を手に入れ必ず生きて帰る。
白み始めた夜の花園を2人は駆け抜けるのだった。
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