第5話 花園

ー第1階層ー

朝早く目覚めた2人は朝食を済ませ、新しい階層に進む準備をした。次の第2階層は特に厳しい自然環境ではないので、防寒具などは必要ない。基地モーテルでは携帯食料や調味料が売っており、シノが目を輝かせて新しく買い込む。


「いや〜買いすぎちゃった」


カインは腕いっぱいの食料を手にほくほくと顔を綻ばせる彼の額にデコピンをお見舞いした。彼は赤くなったおでこを抑え、いそいそと己のバックパックに食料を詰め込んだ。


「キミのデコピン痛いんだよね」


おでこをさすりながらシノはじっとりとした目でカインを見て不服を言った。2人は装備を身につけ、バックパックを背負うと基地を出て第1階層の扉の前に向かう。扉は歩いて5分くらいのところにあり、ツタに覆われた扉は存在感を放っていた。カインはいかにも重厚そうな扉に手を近づけて触れると、彼の銀の弾丸シルバーバレットが光を放ち、扉と共鳴して自動的に開き始めた。


「銀の弾丸でこの門を開けられるのか」

「この感じ...皇帝が門を開いた時と同じだね」


かつて、皇帝メテオラが銀のステッキで楽園の扉を開いたところを思い出す。扉の中を覗くと、奥から温かい風が吹いていきて彼らの頬を撫でる。2人は互いに目を合わせると、一緒にその奥へと歩みを進めた。すると再び、楽園アヴァロンの中に入った時と同じような光に包まれた。



ー第2階層ー

目を開けるとそこは温かい気温で桜色の花が咲き乱れる場所だった。カインの隣に立っているシノはきょろきょろと辺りを見回していた。カインは羅針盤タクトと取り出して第2階層の情報を改めて見る。


”第2階層”_春のような温暖な気候の花園。蟲型の魔獣が多い。天魔は稀にしか現れないが、十分に警戒する必要がある。


「カイン、なんか食べられそうな生物の情報あった?」

「お前食い気ばっかだな。...ツノウサギとか一角獣は普通に生息しているらしい」


カインは文句を言いつつ、羅針盤の情報をシノに伝えると彼は顔を綻ばせる。


「よかったー蟲は食べたくなかったからね」

「でも鎌蜂デスサイズビーっていう蜂のミツは美味いらしい」

「それはちょっと気になるかも」


食に対して好奇心旺盛なシノだが、蟲に対してはあまり食指が動かないようで微妙な顔をしていたが、ハチミツの話には顔を輝かせていた。2人は羅針盤の地図を元に、次の門のある中心部へと進み始める。門は全て階層の中心にあるのだが、そこに入った後はどうやら次の階層の中心部から離れたところへ転送されるらしい。


辺りは花園と呼ばれているだけあって、花で埋め尽くされていた。そして、蟲も多く、彼らの顔よりも大きい蝶や、鷲のように大きな蜻蛉トンボが空を舞っている。


シノが突如目の前に現れた巨大な蝶にびっくりして「ひっ」と悲鳴をあげるとカインに腕にひっつく。


「お前そんなに蟲苦手だったか?」

「ち、小さいのなら大丈夫なんだけど、ここまで大きいとちょっと...」


シノは眉をひそめて、周りの巨大な虫をちらりと見る。ここまで彼が何かに怯えることは珍しかった。普通の男性だったらこんな風にシノに抱きつかれたらすぐに恋に落ちてしまうんだろうが、カインは何事もない顔をしていた。


「取り敢えず先に進んで自然が少なそうな場所を探すぞ。蟲が少ない場所で寝たいだろ」

「もちろん...」


いつもの明るさのないシノを腕にくっつけたまま、カインはずんずんと花園を進んでいくのだった。


道中、奥でカサカサと音がなったのでシノがまた蟲かと体を強張らせた。しかし、それはクリスタルのような一本のツノを額から生やした白馬、一角獣だった。シノの動きは早かった。カインから一瞬で離れて己の銀の弾丸シルバーバレットを取り出すと一角獣に向けて構える。それ銀の弾丸は光を放ち形を変えて銃身の長いショットガンの形になった。彼は引き金を引くと青い雷が銃弾となって発砲され、一角獣に命中した。


「やった命中」


一角獣は立って逃げようとしたが、体は雷によって痙攣をし、最終的に力無く倒れた。彼の銀の弾丸の力は”天雷”と呼ばれる、青い雷を操るショットガンだった。シノは鼻歌まじりにナイフを2本取り出すと、その1本をカインに渡す。


「夜ご飯ゲットだね」

「...」


さっきまで蟲に怯えていた可愛らしい姿はどこへやら、彼は意気揚々とナイフで一角獣を解体していた。カインも解体を手伝い、しばらくは困らなそうなほどの肉を手に入れることができた。そろそろ日も暮れてきていたので、今夜は少し進んだ木々のない開けた場所で過ごすことになった。

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