第6話 大事な予定

「アイラの凄い発明を聞いたところで、本題なんだけど」

「本題?」


 本題って何かしら?

 この遺物の研究についてではないとなると、何か別の珍しい異物でも見つかって、それを見せてくれたり!?

 うきうきして話を待つ私に、フォン様は眩しいくらいの笑顔を向ける。

 期待が高まる!


「ああ。言ってただろう? 今日は家族に挨拶に行くって。まだ準備が出来てないみたいだから、気になって声をかけたってわけさ」

「へ? 家族に挨拶……? え……えええええ!?」


 家族って!

 フォン様は第三王子なんだから、家族といえば王族よね!?

 え?

 知らない!

 あ……そういえば、前に出かける用事があるって……言ってたような?

 その後、色々言ってた気がするけど、遺物に夢中で聞いてなかったような。


「きょ、今日じゃないとダメですかね!? まだ何の準備も……いえ! 心の準備が出来てなくて!」

「あははは。残念ながら、僕と違ってみんな忙しい人たちばかりだから。今日はないと無理だね。心の準備は、まぁ。今のうちにしてよ」

「あわわわわ……じゅ、準備してきます!!」

「うん。侍女たちにはきちんと準備させてあるから、慌てなくてもちゃんと間に合うよ。じゃあ、後でね」


 部屋に戻るやいなや、フォン様の言っていた通り、侍女たちはすでにどんなドレスを着るのかも、どんな装飾品を身に付けるのかも、どんな髪型にするかも全部決めていた。

 私はなすがままにされながら、これから起こるであろう出来事を想像して冷や汗をかいていた。


「国王陛下にお会いするのかしら……だとすると王妃陛下にもお会いするのよね? 二人の王子殿下たちもいらっしゃるのかしら。お姉様と妹様もいらっしゃったわよね……どうしよう。そんなことを話せばいいのか、全く分からないわ!」


 不安だけが募るばかりだけれど、準備は着々と進んでいく。

 抗うことも出来ずに、気が付けば、見たこともないような豪華な格好をして、フォン様が横に立っていた。


「うん。よく似合っているよ。アイラ。今日の服装は僕が選んだんだ。気に入ってくれたかな?」

「気に入るも何も、頭が追いつきません!」

「あはは。そんなに緊張しないで。多少の危険はあるかもしれないけど、いつも通りでいれば大丈夫だよ」

「多少の危険があるんですか!? どういうことですか、それ!?」

「うーん。ほら。僕はこう見えても一応王子だし。王族が一堂に集まるなんて機会、政敵から見たら、格好のチャンスだよね。もちろん警備は厳重にしてあるはずだけど。ほら、世の中に絶対ってのはないからさ」

「それは同意しますが、今回だけは絶対が欲しかったです!」


 何故か楽しそうなフォン様を見て、安心していいのか不安になった方がいいのか分からなくなってきた。

 と、ふと自分の身に付けているものに注意を向けて、驚きで目を見開いてしまった。

 どれもこれも遺物だ。

 遺物の中でも装飾品は、装着者の身を守る魔術が施されていることが多い。

 詳しくは調べてみないと分からないけれど、きっとどれもそういう魔術が施された遺物かもしれない。


「それで……この装飾品を私にですか?」

「あはは。さすがアイラだね。遺物って、詳しい人が見ないとそれだって分からないけど、言うまでもないみたいだ。正直なところ、それぞれがどういう魔術が施されているものなのかは、ぼくも分かってないんだけどさ」

「ちょっと待ってくださいね……簡単に調べてみたところ、嫌な雰囲気は感じません。装着者に害をなす遺物はなさそうです」

「なら良かった! じゃあ、これで安心して挨拶に行けるね! きっとみんなもアイラと会えるのを楽しみにしていると思うよ!」


 ここまでされて、「行きません」なんて言えるわけもなく、陽気な足取りのフォン様についていく。

 挨拶の場は国王陛下の住まう王宮の大広間の一つだそうで、フォン様の宮殿からは距離があるので馬車での移動。

 馬車で揺られている間も、フォン様は楽しそうだ。


「ねぇ、アイラ。その装飾品、君にあげるよ。その代わりというわけじゃないんだけど、どんな魔術が施されているのか分かったら教えてね?」

「フォン様。この遺物ひとつひとつがどれだけの価値があるかご存知ですよね? こんな高価なもの、おいそれともらうわけにはいきません」

「え? アイラはその遺物たちに興味がないの?」

「興味は大有りです! 正直なところ、挨拶の予定がなければ、すぐにでも調べてみたいものばかりです、が! それとこれとは別の問題です!!」


 装飾品の遺物というのは他の遺物に比べて現存数が少ない。

 他の遺物に比べて、そうだと知らない人から見ても価値があるものが多く、更には知らぬまま加工をしてしまい、遺物としての価値を失ってしまってしまうから。

 私が持っているブローチは、そうだと知らないまま手に入れた祖母から譲り受けたもの。

 残念ながら魔術の痕跡はあるものの、その効果はほとんど失われてしまっている。

 一方、今私が身に付けているものは、おそらく加工もされていない、出土したままの状態が維持されている遺物ばかり。

 これを調べたら、きっと面白いに違いない。

 違いないのだけれど。

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