第4話 ここは天国

 ここは天国かしら?

 

 バタバタと結婚手続きが済み、私は晴れてフォン様の妻、つまり第三王子妃となった。

 そして、今は一人で広い宮殿を歩き回っているところ。

 目的は宮殿内に所蔵されている遺物見物。

 フォン様が言うように、フォン様の宮殿には至る所に遺物が置かれ、飾られ、使われていた。

 大体の遺物はその貴重性から厳重に保管される。

 保管されるだけならまだ良い方で、大事にされ過ぎて、誰の目にも触れないところに置かれていることもしばしばあるらしい。

 ところがここは飾るどころか、使っている。

 宮廷魔術師の予算は少なくないけど、遺物を買うのは一つがやっとといったところだったのに。

 さすが王族の財力というべきか。

 ちなみに私の祖父も遺物に魅せられた一人で、私はその祖父の影響で遺物が好きになったのだけれど。

 伯爵家とはいえ、家柄だけの我が家では、私が身に付けているブローチ以外はすでに売り払ってしまっている。

 もともと所蔵数が多かったわけでもないけれど。


「フォン様ってすごく良い人だなぁ。どれでも貸してくれるなんて。実質研究したい放題。本当にここは天国かな」

「呼んだ?」

「きゃあ!?」


 いきなり後ろから声をかけられ、心臓が止まるかと思った。

 やめてよぉ。

 そういうの弱いんだから。

 心の中で涙を流しながら、声の主、フォン様の方を向く。


「呼んでないです。お名前は声に出しましたが」

「あはは。アイラって本当に、なんというか。素直だよね。発言が」

「そうですか? 褒めてくださってありがとうございます」

「うーん……まぁいいや。そういえばずっと貸したままになっている板のやつ。何か分かった?」


 板のやつとは、この宮殿に初めて来た時に見せてもらった板状の遺物。

 接触型の魔術が施されていることはすぐに分かったのだけれど、きちんと調べるには十分な時間が必要で。

 フォン様が言うようにずっと借りたままになっていて、きちんと研究したいところは山々なのだけれど。

 結婚のゴタゴタでまだ出来ていないのが本音なのよね。


「すいません。まだ時間がかかりそうです。一度お戻しした方がいいですか?」

「いや。いいよ。何か出来るまで持ってもらってていい。でも、何か分かったら初めに僕に教えてね?」

「それはもちろん! すぐにでも! 寝ているところを起こしても良いのであれば起こしてお知らせしますよ!」

「寝てる場合は次の日でいいかな。アイラもきちんと寝てね?」


 残念。

 宮殿の中を一通り見たら、板状の遺物の研究に取り掛かろうと思っていたのに。

 徹夜してはダメと言われたので、そこは素直に従おう。

 背いて遺物を貸してくれなくなったら元も子もないから。


「分かりました。は寝ます」

「……僕の言う夜は、暗くなったらだからね?」

「う……分かりました。きちんと寝ます」


 こうなったら早く寝て、早くに起きよう。

 いつから夜かは言われたけど、いつまで夜かは言われてないから。


「とりあえず、まずはこの遺物の本格的な研究は今日から始めるつもりです。何か分かればすぐに」

「うん。期待しているよ。ああ、あと」

「なにか?」

「うん。週末は空けておいてね。出かける用事があるから」

「……? 分かりました。それでは失礼します」


 にこやかに手を振りながら去っていくフォン様を見送る。

 私も自室として与えられた部屋のうちの一つを研究部屋として整理してもらった部屋へと向かった。

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