第31話 妲己ちゃん見破りました
桀王はゆっくりと瞼を閉じてから。
真剣な表情になって思案する。
推哆は舌打ち混じりに言葉を発す。
「まさか、王様。暗闇の巫女の神託に逆らう……」
推哆の言葉を遮って。
碧は言い放つ。
「黙ってろよ。それ以上、惑わす言葉を言ったら。妲己ちゃんが何するか分からねぇぞ」
「ふぁあ。私は何もしませんよ。……あっ、宝具、落としかけました」
「…………っ」
推哆は苛立ち気に黙り込むと。
桀王はゆっくりと目を開く。
「余の理想は……大陸に安寧をもたらす事だった」
碧は黙って。
桀王の言葉を聞く。
「其れが、いつの間にか随分と遠いところに来てしまったものだ」
桀王は惑いある目で。
続けて言う。
「……神託に逆らいたいのは山々だが。今の余には力がない。余の言葉だけでは、伯や貴族官僚は従わぬであろう。故に、神託には従う」
「あら、お利口さんね」
推哆が馬鹿にするように。
言い放つと。
桀王は続けて言い放つ。
「だが、王都を空にする気はない。万が一にでも昆吾伯が攻めてきたときの保険として。王師を始めとした。近衛兵を残し。そして……調停者よ。お主達の力を貸りたい。どうか、余に力を貸してはくれぬか」
「…………」
碧は桀王の目を見据える。
桀王の目は惑いある目から。
覚悟を決めた目に移っており。
碧は大袈裟に溜息を吐く。
「……先に言っておくが、俺らを動かすと。凄ぇ高えぞ。其れでも良いのか」
「良い。其れで王都が。余の守りたいモノが守られるのなら。安いモノだ」
碧が笑みを浮かべて言う。
「まぁ、初回出血大サービスだ。今回だけは、通常料金の半額で手伝ってやるよ」
碧がそう言うと。
桀王の側に立っていた。
王師の男が緩やかに口を動かす。
「……桀王様。申し上げにくいのですが、暗闇の巫女の命により。王師を始めとした近衛兵は貴方の護衛に動くことは確定しています」
「なっ、余の命に従わぬと言うのか」
「王師の実質的な指揮権は暗闇の巫女が握っています。其れは、貴方が一番ご存じでしょう」
「…………っ」
「……ですが、私としても、貴方が描いた道を無碍にするのは心苦しい。故に、一人の者を残します」
王師の男は仮面越しに。
調停者の二人と青年を見据えて言う。
「調停者の二人と加護を得た英傑が一人。そして王師が一人いれば。十二分に王都を守ることが出来ると思われます」
桀王は理解できぬ表情になって言う。
「こ、昆吾伯は二千を越す兵を動かせるのだぞ。其れを、たかだが四人で押さえれるとでも言うのか」
「ええ、可能です」
王師の男が端的に返すと。
妲己は推哆を見つめており。
何かに感づいた表情に変わる。
「……詐欺師さん、詐欺師さん。あの人、どっかで見たことがあるなぁって見つめていたのですけど。やっと、正体が分かりました」
推哆は誰よりも先に。
其の言葉に反応して。
妲己に振り向く。
「…………」
妲己は笑みを浮かべたまま言う。
「あの人、暗闇の巫女のお兄さんです。絶対そうです。だって、なんか似てますもん。ねっとりとした喋り方や、指の動かし方がくりそつです。そっくりです」
推哆は鼻で笑ってから返す。
「なぁに、言ってるのかしら。背丈も顔も似てないでしょう」
「そもそも、顔はスカーフに隠しているから見えませんよ」
「……はぁ。目元は見えるでしょうが。私なんかよりも、暗闇の巫女の方が美人で華麗で、綺麗で、麗しくて、雅さと華やかさを併せ持っているの」
推哆が陶酔するように言うと。
妲己が一蹴する。
「でも、幾分も私より劣りますよね」
「…………」
推哆の眉間にピシッて音が鳴ると。
妲己が思いだしたように言う。
「あっ、でも。スカーフ越しにでも分かったことがあります」
「あら、美人なのを思い出したのね」
「目元の化粧が崩れているなぁって。化粧、下手くそだなぁって思ってました」
「あんたが……怒らすから。化粧が崩れたんでしょうが!」
推哆が胸元から扇子を取り出し。
一蹴すると。
突風が吹き荒れ。
周囲の者が吹き飛ぶ。
「がっ」
風の衝撃により。
桀王の後頭部が。
椅子の背もたれに直撃し。
項垂れ。
「…………」
王師の男は地面に剣を突き刺し。
強引に吹き飛ばされるのを止める。
碧と妲己、青年は壁に打ち付けられ。
崩れ落ちる。
「あっ、やっちゃった! 陰に隠れて、色々、工作するつもりだったのに!」
推哆が乱雑に頭を掻くと。
其の姿が変わり。
暗闇の巫女へと変貌する。
スカーフのない。
其の素顔は。
透明な綺麗さをを持っており。
妲己とは正反対の。
澄んだ美しさを見せる。
少女であった。
そして。
暗闇の巫女。
もとい、少女の魂胆は。
早々にて、妲己に打ち砕かれるのであった。
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