第29話 漢方の通信講座で医者になれるみたいですよ

 碧らは王室に迎え入れられ。

 中に入ると。



 深刻な表情で頭を抱えている。

 桀王がいた。



 仮面を被った男は淡々とした声で。

 桀王に声を掛ける。



「調停者を連れて参りました」



「……き、来たか」



 桀王はうつらの瞳で。

 三人らを見据える。



「で、何の用なんだ。王さんよ。俺らを呼ぶって事は、何かしら頼みてぇことがあるんだろう」



「う、うむ。……暗闇の巫女が下した神託は知っておるよな」



「ああ。知ってるぜ。王都を空にしてでも、商の反乱を抑えろって言われたんだろう」



「余は、余は悩んでおるのだ。神託通りに、王都を空にして良いのかを」



 桀王が真剣な表情で。

 漏らすように呟くと。

 碧は呆れるように。

 頭を掻きながら返す。



「アンタはどうしてぇんだよ」



「よ、余は、最低限の人数だけ討伐に向かわせ。王都は王師を始めとした者達で固めておきたい。率直なところ、昆吾伯は信用ならぬのだ」



「なら、それで良いんじゃねぇか」



「そうはいかぬのだ。代々、神託は絶対とされておる。余が勝手に判断を下しても。貴族官僚が従わぬのが目に見えておる」


 

 桀王は狼狽しながら言うと。

 碧は桀王の自信なさ気な目を見据え。

 不安に動く指を見つめた。



「成る程。こいつは、重症だな」



 碧はそう言って。

 桀王に近づくと。

 仮面の男が前に立つ。



「これ以上、近づくな。不敬であるぞ」



「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろうが。……見たところ。あの王さん、大病を患ってやがる。ちょっと触診するから。どいてろ」



「……よもや、医者なのか」



 仮面の男が驚き紛いの声で言うと。

 碧は当然のように返す。



「ああ、一応、医者だ。専門は薬草学だがな」



 妲己は呟くように漏らす。



「……漢方学を通信講座で学んだだけですのに、医者にまで飛躍してますよ。詐欺師さん、本当に詐欺師さんです」



 碧は妲己の言葉を流して。

 桀王の側に座ると。

 眼科医のような。

 触診を行い。



 一通りの触診を終えると。

 重い溜息を吐いた。



「やっぱりか。……こいつはやべぇ大病にかかってやがるな」



「なっ、余にどんな病が掛かっておるのだ」



「自信のない目に。震える指先。アンタ、一度足りとて、自分で道を選んで進んだことがねぇだろう。……決断出来ねぇ、って言う。大病にかかってやがる。このまま行くとアンタ。此の國と共に死んじまうぜ」



 仮面の男が呆れ紛いに言い放つ。



「決断出来ぬ病だと。そんな病。聞いたことがない」



「あるんだよ。これは精神的な病に属する。……信じられねぇようなら。アンタに聞くが。此の王が、他人の顔色を見ずに、自らが判断して決断したことはあんのかよ?」



「…………」



「ねぇだろう。それが答えだ」



 仮面の男が黙り込むと。

 縋るように。

 桀王が問いかける。



「……け、決断出来なかったのは、やはり病からであったのか。ど、どうすれば治るのだ」



「こればかしはアンタの心の問題だ。治療薬なんてもんは。……いや、そういや。薬丸があったな」



 碧はポケットに紛れ込んだ。

 妲己特製のチャーハンを残骸を丸め。

 


 丸薬のように造り変えて。

 桀王の手の平に置く。



「此れを呑み込めば、其の病の症状は緩和する。味わわず。一気に飲み込むんだ」



「う、うむ」



 桀王が丸薬を飲み込むと。

 深呼吸を繰り返す。



「ちょっとは楽になったか?」



「わ、分からぬ。……だが、少しばかり気分が良い、気がする」



「服用を続ければ、効果が分かるようになるさ。……此れで、アンタの症状は大分緩和した。さて、そろそろ、王の使命を果たそうぜ。神託なんて関係ねぇ、アンタが決断を下すんだ。この大陸を導く。王として、な」



 碧はそう言って。

 笑みを浮かべる。



 崩れるはずの王朝が。

 緩やかに動きを変わり始めた。

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