詐欺師ですが、不幸のヒロインが足を引っ張るせいで時代が進みません。 ～これより大陸を調停します 夏王朝編～

第28話 私は美味しいのが食べたいのです

　碧らは王の腹心である。

　関龍逢に頼み込み。

　食事にありつく。

　客室に食事が並べられ。

　碧は神妙な顔をしながら。

　箸と思われる。

　二本の骨を見据える。

「これ、なに？　まさか、お箸？」

「そうですよ。お箸です」

　碧は続けて問いかける。

「あと、聞きたいんだけど。これ、白米じゃないよね？」

「これは、いわゆる雑穀ですね。健康面には良いですよ」

「……じゃあ、これ何の肉？　味が殆どしねぇんだけど」

「豚肉ですね。この時代は牛よりも豚の方が好まれていたのですよ」

「……へぇ」

　碧が力なく言うと。

　妲己は諫めるように言う。

「詐欺師さん。時代が違って。色々と困惑するのも分かりますが、此れ等の料理も、此の時代にしては良い料理なのですよ。ほら、ツンデレ君を見て下さい」

　青年は満足そうに食べており。

　碧は漏らすように言う。

「旨そうに食うなぁ。……全然、旨くねぇのに」

　碧が溜息交じりに言うと。

　妲己がお母さんのように言う。

「文句ばっかり言っていたら。何も食べれませんよ。大人しく食べるのです」

「わぁってるよ。……あぁ、いつも食ってた。すき屋ねんの牛丼が、こんなに恋しくなるとは」

　碧は文句を言いながら。

　箸を伸ばし。

　食べ続けると。

　妲己はゆっくりと立ち上がる。

「……さて、と」

　妲己は自分の雑穀と豚肉を持ったまま。

　厨房へと向かい。

　鼻歌と共に調理を勝手に始め。

　チャーハンを造って戻ってきた。

「上手く出来ました。あっ、美味しいです。やっぱり、食材を生かすも殺すも、料理人次第ですね」

「なぁに自分だけ、改良して食ってんだよ！　俺にも寄越せ」

「駄目です。これは、妲己ちゃんが頑張って造ったのです。誰にも食べさせません」

　妲己はお皿を持ったまま逃走する。

「ツンデレ！　アイツを捕まえろ。一人だけ巧いもん、食おうとしてやがる」

「もう、十分に旨ぇだろうが」

「もっと旨ぇモノが山ほどあんだよ」

「うぅぅ。美味しいです。妲己ちゃん、秘蔵レシピのチャーハンは至高です」

「腹立つ顔してやがる。是が非でも、奪って食ってやる」

　碧と妲己が走り回っていると。

　仮面を被った長髪の男が現れる。

「なにをしているのだ。処刑囚、一号、三号よ」

「じゃ、邪魔です。どいてくださ」

　仮面の男は走ってきた妲己と衝突し。

　お皿は宙に浮き。

　乗っていたチャーハンは。

　碧に降り注ぐ。

「あっ、ちぃぃぃ！」

　碧が熱さに走り回っていると。

　地面に落ちた。

　チャーハンを見て。

　妲己は膝を付く。

「うぅぅ、不幸です。食事すら満足にとれないだなんて。……ああ、哮天君、私を慰めに来てくれたのですね」

「わ、わわわん」

「ああ、そのチャーハン食べないで下さい。詐欺師さんの顔に掛かったのですよ。絶対に、お腹を砕くか、性格が悪くなります」

「ちょっとは俺の心配をしろよ！」

「心配なんてしませんよ。自業自得です」

　妲己はぷんとした顔で言うと。

　仮面の男は溜息交じりに言う。

「食事なら、また用意をしよう。その前に、一旦、王室へ来て貰いたい。王が君たちを呼んでいる」

「そうかい。じゃあ、行くぞ、ツンデレ、妲己ちゃん」

「へいへい」

「ぷい」

　仮面の男の後を付いて行くが。

　妲己はご機嫌斜めであり。

　碧は頭を掻きながら言う。

「……妲己ちゃん。そろそろ、機嫌を直せよ」

「妲己ちゃん。ご機嫌ですよ。ふてくされてませんよ」

「誰が見ても機嫌悪いだろうが」

「言っておきますけどね。あのチャーハンは、あのチャーハンは、私を喜ばせる為に生まれてきたのですよ。具材の豚肉さんとおネギさんは涙を呑み。油と雑穀にまみれる恥辱を受け入れ。雑穀さんは、……ぶっちゃけ、白米の方が良かったですけど。全てはチャーハンになるために、生まれ変わったのですよ」

「えっ、なに、これ？　そんなに深刻な話なの」

　青年が困惑紛いに突っ込むが。

　妲己は無視して言う。

「一将功なりて万骨枯るという諺があります。……意味は忘れましたけど。なんか、こう、今の私を示しているようです」

「アンタが意味分かんなかったら。俺らは、もっと分かんねぇぞ」

　青年が突っ込むが。

　碧ははっとした表情になり。

　真剣な表情で言う。

「妲己ちゃんの気持ちはよく分かった。……王との会談が終わり次第。俺がチャーハンを造ってやるよ。妲己ちゃんが造った、至高を超える。究極のチャーハンをな」

「いや、素直に謝れば良くねぇのか」

「さ、詐欺師さん」

「えっ、なに、それで良いの？　やっぱ、おまえら、頭おかしいわ」

　青年の突っ込み能力が上がった。

　青年の心労が増え。

　常識が減少した。

　調停は。

　まだ。

　全く進んでいない。