第26話 クレヨンは持ちましたか? さぁ、一緒に道を描きましょう。

 碧の額に青銅の球体が直撃し。

 額を抑えながら。

 起き上がる。



「あ、頭が物理的にいてぇ」



 暗闇の巫女は呆れるように立ち上がる。



「さて、伝えることは伝えたわ。後は、貴方次第よ」



 暗闇の巫女はそう言うと。

 扇子を取り出し。

 緩やかに時空を割く。



「ま、待てよ。何処へ行く気だ」



「何処でも良いでしょう。……第一、此の時代に於いて、私の役割はもう終わっているのだから」



「役割だって?」



「私の役割は、貴方たち調停者をアシスタントすること。もう、十分に役割は果たしたわ。……だって、貴方たちが余計なことをしない限り。此の時代は、定められた時代に向かっていくのだから」



「…………」



「余計なことはしないでね。それじゃあ、また、次の時代でお会いしましょう」



 暗闇の巫女はそう告げると。

 時空の裂け目に消えていった。



 碧が空になった。

 玉座を眺めていると。

 青年が起き上がる。



「……っ。身体の傷が塞がっている。どうなってんだ」



 青年は傷が塞がっている。

 身体を見てから。

 思い出したように叫ぶ。



「そうだ! ……親父は、あのくそ親父は何処へいった!」



「とっくに出て行っちまったよ」



「……っ」



 青年がやり場のない怒りを。

 地面にぶつけると。



 碧は重い溜息を吐いてから言う。



「……なぁ、妲己にツンデレ。次なる王朝は、あの昆吾伯が造るんだとよ」



「みたいですね」

「はぁ!」



 妲己は当然のように頷き。

 青年は理解しがたい表情に変わる。



 碧は二人を見詰めて言う。



「だがな。俺は認めねぇ。其れが伏羲が創り上げた道に背くことになっても。俺はあんな、人を人とも思わねぇ奴が、人の上に立つことは認めねぇ」



「……伏羲様や暗闇の巫女さんが用意した道を使わないのですか」



 妲己が問いかけると。

 碧は真剣な表情で返す。



「使わねぇよ。……第一、道って言うもんはな。自らが描き。自らの足でその道を進むもんだ。目の前に都合の良い道が用意されていたとしても、自分で描いてねぇ時点で、必ずどっかで行き止まる」



「…………」



「俺はそんな生き方しちゃいねぇし。これからもする気はねぇ。第一、調停者って言うのは時代を、人を導くのが役割だろう。導く役割を担っている奴が、他人が引いた道にしか進めねぇって言うのも、可笑しな話だろう」



「そう、ですけど」



「下らねぇことに悩み過ぎちまった。次代を担う。人を導く。自分の願いの為に、何かを犠牲にする。こんな下らねぇことを考えてたから。わけわかめちゃんになっちまったんだよ。答えはいつだってシンプルだ。……自分が成し遂げたいことが、ちゃんと自分の手で描いているかどうか。ただ、それだけだ。詐欺師が初心を忘れちまうとは情けねぇな。あっ、間違えた、メンタリストだった」



「いえ、合ってますよ。詐欺師さんは詐欺師さんです」



 妲己が真顔で突っ込むと。

 碧は二人を見据える。



「さて、俺はもう道を描ききった。……後は、お前ら次第だ。妲己にツンデレ。お前らは、どんな道を描いた」



「私の道は決まってますよ。詐欺師さんに、おんぶに抱っこです。頑張って、私を担いで前に進んで下さい」



「OK、OK。妲己ちゃんに聞いた俺が馬鹿だった。……で、ツンデレ。お前はどんな道を描くんだ」



 青年は口元を噛みしめ。

 深く呼吸を落とし込んでから。

 碧を見据える。



「俺が成し遂げたいことは、一つしかねぇ。……あのくそ親父を斬る。其れだけだ」



「おいおい。つまんねぇ道だな。こんなんじゃ。俺の入塾試験にも通らねぇぜ」



「……あのくそ親父を斬るのを止めろ。って言う気か」



「何勘違いしてんだ。一人を斬っただけで、道が終わるって言うのがつまんねぇって言ってんだよ。お前が描きたい道って言うのは、そんな目先で閉じる道なのか。……一度っきりの人生なんだ。もっと壮大で、千里すらも超す大道を描いちまいな」



「千里すらも超す大、道」



 青年の目が大きく見開く。 

 碧は青年の瞳を捉え。

 逃さぬように告げる。



「さぁ、道を描こうか。その道が理想の果てに続くまでな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る