第25話 狂人の調停者さんがいるみたいです
暗闇の巫女は呆れた表情で。
指を鳴らすと。
魔方陣が浮かび上がり。
碧や青年の傷を治癒してゆく。
碧が気絶から目を覚ますと。
頭を抑えながら立ち上がる。
「……っ。頭がいてぇ。何か乗っ取られた感覚と、理不尽に気絶させられた気がする」
暗闇の巫女は碧の目の色が戻っているのを見て。
深い溜息を漏らす。
「えーっと。何処まで話したっけ。……あーそうそう。昆吾伯と戦うことは控えなさいと言う話だったわね。さっき、言った通り。貴方達では昆吾伯を抑えられないわ。此処は、定められた時代通りに大人しく従いなさい」
「…………」
「嫌って言う目をしてるわね。……なら、仕方ないか。このまま進めば、少なくとも此の時代で争うことがないと思っていたから。黙っていたんだけど。このまま余計に時を重ねると。少々、面倒なことが生じるわよ」
「面倒なことだと?」
「……
「聞いたことねぇな。誰だ、その女禍って奴は?」
「女神様よ。……まぁ、異なる世界の管理者が。伏羲の管理する世界に対して、ちょっかいを掛けに来たと思ってくれて良いわ」
暗闇の巫女は人差し指で。
地球儀を模した。
青銅の球体を回しながら続ける。
「今回のように調停者が二組も送られるのって、異例中の異例なの。しかも、互いに求められている内容が違うのだからね。……貴方方は定められた時代通りに動かす使命を帯び。もう一方側は、定められた時代からの逸脱を求められている」
「…………」
「しかも、相手の調停者が、人の身でありながら。定められた時代を崩しかけた。あの明治の狂人ときてるのよ。悠長にしている時間なんてないわ」
「明治の、狂、人?」
暗闇の巫女は碧を観察するように。
眺めながら続ける。
「この人物がちょっと、と言うか、大分、厄介でね。人の才覚を見抜く能力が。いや、違うわね。人の心に、狂気を焚き付ける才覚を持ってるの。現に、明治に於いては、この者が処刑されたことにより。弟子や國を憂う者達が焚き付けられ。明治政府が転覆寸前にまで陥った。……調停者が強引に時代を塗り替えなきゃ。そのまま明治政府が瓦解していたのよ。それ程までに、厄介な者が調停者になったの」
「……狂気を焚き付ける」
碧の脳裏に引っかかりがあるのか。
其の人物を思い出しかけていると。
妲己が起き上がる。
「か、かまぼこです」
妲己は周囲を見てから起き上がる。
「あっ、夢でしたか。かまぼこの満願全席がひたすら出てくる夢を見ていました」
「どんな夢だよ、それ!」
碧が突っ込み紛いに言うと。
暗闇の巫女が笑みを浮かべて言う。
「あら、おはよう。妲己」
「あっ、暗闇の巫女さんですか。……あれ? 眉間に小じわ増えました? 始めて会ったときよりも老けてますよ。イライラは美容の天敵です。めっ、ですよ。怒るのは」
暗闇の巫女は眉間に更に皺が寄ると。
人差し指で回していた。
青銅の球体を握り締め。
青銅は悲鳴のような。
圧縮音が鳴ると。
暗闇の巫女は全力で。
妲己に投げ込む。
「アンタのせいで、増えたのよ!」
青銅の球体は全速力で妲己に向かうが。
因果すらも捻じ曲げる。
不幸によって。
屈折するように軌道を変え。
碧に向かう。
「えっ、なんでこっち来んの! ちょっ! ごふっ」
妲己は頷きながら言う。
「宝具を使った代償ですね。……不幸ですねぇ」
「不幸なのは俺なんだよぉ! チェンジで、やっぱ、相方のチェンジお願いします!」
碧の叫びは。
空しく天へと消えていった。
調停はまだ。
殆ど進んでいない。
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