第23話 円満解決です(解決するとは言ってませんよ)
伯の座から降りる命を伝えると。
昆吾伯は口元を緩め。
笑い始める。
「はっははは。こいつは傑作だ。まさか、そのガキに、名から肩書きまで全て渡す嵌めに陥るとは」
昆吾伯はひとしきりに笑うと。
口元を手で覆ったまま桀王を見据える。
「……桀王様よ。どうやら神託によると、俺は退かなきゃいけねぇみたいだ」
桀王は昆吾伯の圧に堪えきれず。
目をそらす。
「そ、そう、みたいであるな」
「おいおい、つれねぇな。今まで支え合ってきた仲って言うのに。庇いもしてくれねぇのか。こう簡単に、切り捨てられちゃあ。たまったもんじゃねぇな」
「す、すまぬ」
昆吾伯は桀王の態度を見て。
呆れ紛いに失笑を漏らす。
「……はっ」
昆吾伯は。
何かを思案するように。
頭を掻いてから。
言葉を続ける。
「まぁ、良い。此の国の為だ。俺が退くことで、夏に安寧が齎されるのなら。喜んで退いてやろう」
「ほ、本当であるか」
「ああ、本当だ。だが、今じゃねぇだろう。今は反乱を治めることが大事だ。此の反乱が治まったら。俺は大人しく隠居するさ。……其れで良いだろう。暗闇の巫女さんよ」
「……ああ、良いぜ」
昆吾伯は背を向けて歩き始める。
「昆吾伯、何処へ行く気だ。まだ、商の反乱を如何に抑えるかについての話は終わってないぞ」
関龍逢が制止を促すと。
昆吾伯は呆れ紛いに返す。
「神託を聞いてなかったのか。俺は待機し。周辺の異民族に睨みを聞かせるのが役目だと。これ以上、俺が此処にいても邪魔になるだけだろうが。……それに」
昆吾伯は碧を睨み付け。
殺意を入り交えて言い放つ。
「その女を見ていると。苛立ってしょうがねぇ」
昆吾伯は背中を見せたまま。
手を振って出ていく。
「じゃあな。暗闇の巫女。精々、そのガキと淡い夢でも見ときやがれ」
昆吾伯が退出すると。
「……ゴホン」
関龍逢がわざとらしく咳を行い。
話を進める。
「では、これから商の反乱鎮圧について。話を詰めていく」
一刻半余り。
論議を行うと。
話は纏まり。
桀王と関龍逢が王宮から退出すると。
其れを見届けてから。
伯や官僚が退出してゆく。
「…………」
碧は啖呵を切った後から。
呆然と天井を眺めており。
妲己は鼻提灯をして。
気持ちよさそうに。
蹲った青年を枕に眠っていた。
碧は身に纏っていた。
宝具、如意羽衣を脱ぎ。
重い溜息を漏らすと。
時空が揺らめき。
玉座の前に。
暗闇の巫女が現れた。
暗闇の巫女は玉座に腰掛け。
見下ろす形で碧を見据える。
「一先ず。ご苦労様。これで、新たなる時代の扉が開くわ」
「いつから見ていたんだ」
「さぁ、いつからでしょうね」
暗闇の巫女は含み笑いをして。
言葉を続ける。
「変なアドリブを入れるから驚いちゃったじゃない。昆吾伯の代交代ねぇ。……面白いアドリブだわ。本来なら、私が昆吾伯を唆し。反乱を起こすように仕向ける予定だったんだけど。昆吾伯のあの態度を見る限り。私が唆さなくとも、反乱を起こしそうね。期待以上の働きよ。褒めてあげる」
「褒めるのは早ぇんじゃねぇか。俺は宣言通り。コイツを昆吾伯の後釜に置く気だからな」
「…………」
「次の時代は昆吾伯が築けば良いんだろう。なら、血の引くコイツが建国しても問題ねぇ筈だ」
「問題大ありよ。勝手なことは慎んでくれるかしら。余計なことをすると、其処からなし崩し的に時代は崩れていくわ」
「俺が調停者なんだぜ。どのように動かすのかも俺次第だろう」
「あら、神にでもなったつもりかしら。所詮、貴方は伏羲の駒の一つに過ぎないのよ。第一、貴方たちであの昆吾伯を打ち倒せるの?」
「妲己の宝具があるだろうが、其れに、コイツには時代の加護がある」
「はっははは。言っておくけどね。妲己の宝具は人に放つと。相応の代償が返ってくるの。それに、その蹲っている青年に期待しているみたいだけど。そもそも、其の子に英傑の器はないわ。だから、加護を持ちながら。王師程度に後れを取るの」
「…………」
「さて、再び聞くわ。本当に貴方は、伏羲が定めた時代から逸脱しようって言うのかしら」
暗闇の巫女はスカーフ越しに。
楽しそうに問いかける。
碧に決断の時が迫っていた。
「むにゃむにゃ。そ、其れはチャーハンじゃありませんよ。チャーさんが造ったパンです。チャーパンです。ぐー」
妲己は気持ちよさそうに眠っていた。
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詐欺師ですが、不幸のヒロインが足を引っ張るせいで時代が進みません。 ~これより大陸を調停します 夏王朝編~ 橘風儀 @huugi
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