第22話 狂なる決断(詐欺師さん、神託まで詐欺っちゃいます)

 碧は覚悟を決めて口を開く。


「……商は、夏を滅ぼす禍の星と出ています。夏の総力を挙げてでも討ち滅ぼすべき、と神託が下りました」



 碧がそう言い放つと。

 桀王は苦い表情を浮かべて言う。



「総力と言うことは、近衛軍である王師をも動かし。数多の伯の助力も必要と言うことであるか」



「はい。……そうお告げが出ています」



 碧の言葉を聞いた。

 推哆は口元を歪めてから。

 桀王に言う。



「夏の政体に於いて。神託は絶対よ。だけど、総力を挙げて商に向かうのは、少しばかりナンセンスね。王都が空になった隙を見て。夷狄いてき(異民族)に攻め込まれたら面倒ですもの。……ですので、昆吾伯は、商の討伐に向かわさず。いざという時の保険に控えさせておくのはどうでしょう」



 関龍逢は目を見開く。



「いやはや。昆吾伯は、商の討伐には必要不可欠な人材だ。是が非でも、ご同行願いたい」



「あら、今の物言いだと。昆吾伯に背中を預けることが出来ないから。目の届く範囲に置きたい。そう言っているように聞こえるわね」


 

 推哆が嘲笑するように言い放つと。

 昆吾伯は笑みを浮かべて言う。



「おいおい。夏とは何百年と言う。付き合いがあるって言うのに。そう疑われたら、小心者の俺は傷ついちまうな」



「思ってもねぇ事を」



 関龍逢が昆吾伯を睨み付けると。

 昆吾伯は意も介さぬ表情で。

 桀王に視線を移す。



「そう言うことで、王さんよ。俺は王都を守る為に。商の討伐にはでねぇことにした。其れで良いよな」



 昆吾伯は有無を言わさぬ目つきで。

 桀王を睨み付けると。



 桀王は圧に堪えきれず。

 目を背け。

 暗闇の巫女に言う。



「く、暗闇の巫女よ。し、神託では。昆吾伯はどう動くべきだと言っておるのだ」



「おいおい。俺は王様に聞いてんだぜ。第一、そんな些末なことまで神託に委ねんなや」



 昆吾が呆れるように言い放つと。

 推哆が口を挟む。



「まぁ、暗闇の巫女の意見も聞こうじゃないの。さぁ、暗闇の巫女さん。昆吾伯はどう動くべきです」

「…………」

 


 碧は僅かばかり躊躇ったが。

 此の時代を潰すという。



 自らの責務を果たす為。

 覚悟を決めて言い放つ。



「……昆吾伯は待機すべきと。神託が出ています」



「なっ、嘘だろう!」



 関龍逢は驚きの表情で。

 碧を見つめると。



 碧は下を向いたまま。

 顔を上げれなかった。



「つうわけだ。俺は待機させて貰うぜ」



 昆吾伯はそう言うと。

 楽しげに碧に近づく。



「さて、話も終わったわけだし。そのガキを渡せ。こっちで処分しておいてやる」



「……さっき、言っただろうが。コイツは俺が引き受けると」



「はっはっは。なんだお前。コイツに惚れてんのか。……確かに、コイツはあの女に似て。顔は良いよな。女に生まれてりゃ。あの女同様、飽きるまでは可愛がってやったのに、よ!」



 昆吾伯は蹲っている。

 青年の腹を蹴り飛ばす。



「……っ」



「おいおい。まだ暢気に寝てんのかよ。其れとも寝たふりしてんのか。本当に、あの女とそっくりだな。もう一発。入れりゃあ、めぇさますか」



 昆吾伯が蹴ろうとすると。

 碧はその蹴りを足で止める。



「……なぁ、お前。何がそんなに面白い」



「あぁ?」



「何がそんなに面白いって、言ってんだよ!」



 碧は全力で昆吾伯の顔を殴り飛ばした。



「…………」



 昆吾伯は数歩。

 下がってよろめきながら。

 口元の血を拭く。



「良い度胸じゃねぇか。伯である。俺に一発入れるとはよ」



「伯だと? はっ! なぁに誤解してやがる。元、伯だろうが」



「なんだと?」



「……ああ、さっき。新たな神託が下っちまった。ポーンって、頭ん中に入ってきた。やっぱり、俺には無理だわ。こんな奴に、次の時代なんて任せられねぇ」



 碧は足を振り上げて。

 昆吾伯に人差し指を突きつけ。

 言い放つ。


「昆吾伯の代交代の神託が降り立った! ……次なる、昆吾の、伯の名を受け継ぐ男は、其処に蹲っている男だ! 先代は、さっさとその名と、肩書きを置いてどっかいきな」



 碧の言葉に周囲は騒然とする。



「…………」



 昆吾伯は刺殺せん勢いで。

 碧を睨み付けており。


 

 推哆は目を見開いて。

 碧を見据えていた。



 碧の神託によって。



 時代は再び。

 歪みを見せ始めた。



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