第21話 神託言っちゃいましょう(此の回で言うとは言ってません)

 妲己だっきは袖をまさぐりながら言う。



「妲己ちゃん反省しました。次は不幸度の低そうな宝具を選びますね。……これは、王宮ごと潰れちゃいますね。えーっと、これは、都市ごと潰れちゃいますね。あっ、でも、使うのは詐欺師さんですし。別に良いですよね。私に不幸帰ってきませんし」



 仮面を被った長髪の男は。

 詐欺師と言う言葉を聞き。

 


 暗闇の巫女の姿になった。

 碧に問いかける。



「……詐欺師さん? よもや、貴方、暗闇の巫女ではないのですか」




 碧は駆け足で長髪の男に近づき。

 耳元で言う。



「色々あって。いま、暗闇の巫女はパタンキューしてんだよ。だから、此処は黙っていてくれ」



「……神託は受け取ってるのですか」



「ああ、受け取っている。王都を空にしてでも、反逆者を討ちに行かせろとな」



 長髪の男は。

 スカーフで隠れている。

 碧の目を見据えて言い放つ。



「貴方は其の言葉を、そのまま伝える気ですか」



「…………」



 長髪の男は碧の複雑な表情を見て。

 心が定まっていないのを察し。

 緩やかに青年から離れる。



「王よ。あの青年の処遇は暗闇の巫女が決めるそうです。私としても、これ以上、王の前で血を見せることに躊躇いがある為。彼、ゴホン、彼女に任せたいのですが」



「よ、よいぞ」



「王の慈悲に感謝することだな」



 長髪の男がそう言うと。

 昆吾伯が頭を掻きながら口を開く。



「おいおい。勝手に話を終わらせんなや。其のガキは、伯である俺を殺そうとしたんだぜ。暗闇の巫女が何様かは知らねぇが。俺の意見を差し置いて、何勝手に決めてやがる」



「王の決定に異を挟む気か」


 

 長髪の男が冷たい目で言い放つと。

 昆吾伯がにやけた笑みを見せる。



「伯である、こっちの体裁も守れって言ってんだよ。そのガキは俺が責任以て殺してやるよ。だから、さっさと寄越せや。其れとも何だ。暗闇の巫女様が、身代わりになるってか。俺はそっちでも良いぞ。そのスカーフ越しに澄み切った顔を歪めてぇと思っていたしな」



「生憎と、てめぇに歪められるほど、こっちの面は安くはねぇんだよ」



 碧と昆吾伯が睨み合っていると。

 王宮の扉を開かれる。



 王宮には化粧をした。

 男の姿が現れ。



 王の前に膝を付く。



「遅れて申し訳ありませんわ。色々とありまして。此方に来るのが遅れました」



「す、推哆すいしか。其れで、商の動きはどうなっておる」



 推哆と呼ばれる。

 女の振る舞いをした男は。

 膝を下ろしたまま言う。



「商の軍勢は、軍を解散させることなく。北上を続けています。……恐らく、この王都へと向かっていると思われます」



 昆吾伯は愉快気に口笛を吹く。



「はっ、ははは。本当に狂犬じゃねぇか。まさか、本気で夏王朝と戦うとはな」



「笑いすぎよ。昆吾伯」


 

 推哆は諫めるように。

 昆吾伯に言い放つ。



「悪い、悪い。……で。どうすんだ。王様よ。反逆者が来るまで、此処で行儀良く待ってるつもりか?」



「歴代の王が行ったように。暗闇の巫女に神託を委ねるつもりだ。……暗闇の巫女よ。我が前に出て。神託を授けてくれ」

「…………」



 碧は目を瞑って夏王の前に進み出る。



 碧の表情は硬く。

 神託の内容を伝えるか。  

 決めかねている様子であった。



 数十秒。

 無言で口を閉じていると。

 

 

 周囲から急かすような視線を浴びせられる。



 碧の脳裏で。

 数多の感情や考えが錯綜する中。

 妲己の言葉が浮かび上がる。



(貴方の叶えたい願いと、此の時代を潰すこと。果たして、何方に天秤は傾いていますか)



「……そんなの、言うまでもねぇだろうが。自分の願いを叶える為に俺は調停者になったんだ。一時の感情に身を任せられっか」



 碧が覚悟を決めて口を開く。



「……神託を、神託を伝えさせて貰う」



 推哆は碧の覚悟を決めた表情を見て。

 口元を緩める。



 間もなく。



 妲己によって。

 紆余曲折した時代は。

 定められた時代に戻ろうとしていた。

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