第19話 詐欺師さん 巫女になっちゃいました

 あおいは乱雑に頭を掻くと。

 振り返り。

 妲己だっきに問いかける。



「なぁ、妲己。……巫女から預かった神託を伝えると。此の王朝は確実に崩壊する。そんだけの手筈が整っているのが見て取れた。だが、其れが良いのか、俺には分かんねぇ」



「………」



 妲己は初めて生真面目な表情を見せる。



「……昔。私がお世話になった。大切な人から譲り受けた言葉があります。本当に悩んだら。天秤を使いなさいと」



「天秤、だと」



 妲己は清廉な雰囲気を纏い。

 艶がある声で言う。



「天秤は釣り合うことはありません。仮に釣り合うとしたら、其処に無駄な不安を乗せ。強引に釣り合わせているだけ。……さぁ、詐欺師さん。貴方の叶えたい願いと、此の時代を潰すこと。果たして、何方に天秤は傾いていますか」



「……そんな簡単に決めれっかよ。俺の一存で、時代が、此の時代に生きる人々の運命が」



「悩んではなりません。今、心の中で傾いている方。其れが、貴方の本当の願いなのですから」



「…………」



 碧が口元を噛みしめると。

 妲己は袖の中から。

 朱色の羽衣を取り出す。



「宝具、如意羽衣にょいのはごろもを貸してあげましょう。姿、形、そして声まで誤認させることが出来る宝具です。……詐欺師さん、貴方の役目、果たしてきて下さい。私は何方に転んでも応援しますよ」



 碧が如意羽衣を身に纏うと。

 碧の姿が暗闇の巫女へと変わる。



 碧が複雑な表情で立ちすくんでいると。

 王の使者が向かってきた。



「暗闇の巫女殿。至急、王宮に向かうように命が出ております。ご同行を願います」



「なんで俺に言って。ああ、そうか。……今行く。妲己、ツンデレ。お前らも付いてこい」



「はいはい。じゃあ、行きますよ。ツンデレ君」

「へいへい」



 碧らが王宮に辿り着くと。

 王宮には有力諸侯や。

 貴族、官僚がおり。



 玉座にはけつ王が座っていた。



 碧が王宮に入ると。

 周囲の者が騒然とする。



「あれが、暗闇の巫女だと。……王宮から出ぬと聞いていたが。よもや、出てくるとは」



「王宮はさっき落雷で全壊したらしい」

「成る程、なら、仕方ないな」

「ああ、仕方ない」



 碧は決めかねた表情のまま。

 王の前に現れる。



「……俺が、暗闇の巫女だ」



「よくぞ参った。……関龍逢かんりゅうほうよ。暗闇の巫女に事のあらましを伝えてくれ」



 桀王の側に控えていた。

 関龍逢が前へと出る。



「軽く、概要だけ話させて貰う。……商という邑(集落)で決起が行われ。伯の位を持つ。あの愚者……葛伯かつはくを討った」



 其の言葉を聞いた。

 四十代の男が笑いながら言い放つ。



「愚者を討ったんだったら。良いことじゃねぇか。俺らを集めたのは、なんだ? その、商って邑の奴らを表彰するためか」



「茶化すなら黙ってて貰えないか。昆吾伯こんごはく



 昆吾と呼ばれた男は。 

 乱雑に頭を掻いて言う。



「茶化したくもなるだろうが。何の用で俺らが呼ばれたのかと思えば。たかだが、一つの邑の決起で呼ばれるなんぞ。……俺らのような、数多の邑を管理する。伯の地位の奴が決起したら。そりゃあ、不味いが。高々、一つの集落相手に、こんな雁首揃えるこたぁねぇだろうが」



「普通の邑ならばな。……だが、商を率いている長が。あのとうと来た」



「湯? 聞いたことがあるな」



「異民族の侵攻が会った際。夏の援軍を待たず。僅かな手勢で返り討ちにした人物であり。夏の狂犬とまで言わしめた奴だ」



「はっははは! まさか、飼い主にまで噛みつくとはな。こいつは本当の狂犬だ」



「笑い事ではないぞ。昆吾伯」



「わるい、わるい。……で、其処に突っ立てる。暗闇の巫女」

 


 昆吾伯は碧を見据えると。

 其の背後にいる青年を睨み付ける。



「の背後にいるガキ。なんで、てめぇが此処にいんだ。王宮の警備は、野良犬が入ってきても止めやしねぇのか」



 青年は昆吾伯を睨み付け。

 言い返す。



「……くそ親父が」



 青年が剣の柄に手を掛け。



 ゆるやかに前に出た。



 定められた時代に。

 ヒビが入ろうとしていた。

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