第18話 調停者の役割(やっとシリアスな回です)

 暗闇の巫女は月を眺めながら。

 口を開く。



「調停者を理解するには、まず空白の時代について理解しなければならない」



「空白の時代、だと?」



「王朝の交代期にはね。空白の時代が訪れるの。空白の時代とは、言い換えれば、英傑なき戦乱の時代」



 あおいの脳裏に戦乱の時代が駆け巡る。



「奸雄はいても。時代を創り上げる英傑がおらず。戦乱に明け暮れる時代。其の時代を、空白の時代と呼ぶの。……あら、どうしたの気分が悪そうね」



「……いや、大丈夫だ。続けてくれ」



「あら、そう。なら続けるわね。調停者の本来の役割は。この空白の時代を防ぐことにあるの。……見所のある人間に力を与えるのも。英傑へと昇華させるのも全ては、次なる時代へと導くため」



「空白の時代とやらをなくす為に、調停者が必要って言うんだな」



「そう言う事。此処までは妲己から聞いてるでしょう」



「アイツが言うと思うのか。と言うか、理解していると思うか?」



 暗闇の巫女は妲己を見ることもせず。

 妲己が始めっからいなかったかのように続ける。



「……さて、話を戻すわよ。貴方たちは、次なる王朝に導く為に動かなければならない。次なる王朝は、誰が造るか知っているかしら?」



「いいや、知らねぇな」



「次なる王朝は、昆吾こんごと呼ばれる者が建国するの。そしていん王朝を建国する」



「……昆吾? どっかで聞いたことがあるな」



「貴方方の使命は昆吾に味方し。夏王朝を滅ぼす事にあるの。私らはね。この王朝を潰す為に招かれているの」

「…………」



「あら、どうしたの。もしかして、この時代を潰すことに抵抗でもあるのかしら」



「……ねぇって言ったら嘘になるな。王や、臣下に会ったが。悪い奴じゃなさそうだったからな」




「あらそう。なら、先駆者として忠告するけど。肩入れしない方が良いわよ。変に愛着を持つと。動けなくなるからね」



「忠告どうも。そんで、今更なんだが。お前は何者なんだ。俺らの協力者って考えて良いのか」



「……ええ、そうよ。私は、貴方方、調停者を補佐する為に派遣されたの。私は内側から、夏王朝を切り崩し。貴方らは、外側から叩き潰し。新たなる王朝を創り上げる」



「好きじゃねぇな。そういうやり方」



「次第に慣れるわよ。所詮、この世界は伏羲ふっきの手の平の上にあるのだから」



 暗闇の巫女が蔑視するような目で。

 自らの平を見ると。



 仮面の男が目の前に現れる。



「王より。火急の命で御座います。……とうと呼ばれる者が大規模な決起を行った模様。暗闇の巫女の神託が欲しいとのことです」



「ああ、もう、そんな時期なのね。なら、いつもの手筈通りに、宮殿に……」


 

 暗闇の巫女が宮殿を見ると。

 全てが焼け野原になっており。



 妲己だっきが木材の欠片を投げ。

 哮天犬に取りに行かせていた。



「哮天君。取ってきて下さい」

「わん」



「……私が王宮に向かうわ。王にそう伝えなさい」

「はっ!」



 暗闇の巫女は碧に振り向く。



「私は自らの責務を果たしに向かうけど。貴方はどうするの。私と同じく。伏羲の駒として動く? 其れとも、伏羲の定めた時代逆らう? さぁ、貴方は何方を選ぶのかしら」



「……今は、まだ。何も言えねぇよ」



「あら、そう。先延ばしにするほど、自分を追い詰める結果になるかも知れないけれど。其れは、其れで面白いわ。……苦悩の果てに、貴方がどういった選択を取るのか、見届かせて貰うわ」



 暗闇の巫女が王宮へと進もうとすると。

 木材が回転しながら。

 暗闇の巫女の後頭部へ直撃した。



 暗闇の巫女はふらつきながら。

 怒りをかみ殺して振り返る。



「……だぁっきぃぃぃ。また、アンタかぁ!」



「じ、事故です。哮天こうてん君、謝って下さい。あっ、それはお座りです。あぁ、可愛いですぅ」



「もう、赦さないわ。此処で始末してや……あっ」



 暗闇の巫女の眉間に血管が寄ると。

 血が上りすぎたのか。

 気を失うように。

 倒れ落ちた。



「おい、大丈夫か!」



 碧が駆け寄ると。

 暗闇の巫女は苦い表情で言う。



「神託を言わなければいけないのに。こんな大事なところで、意識なんて失っていられ……」



「……っ。俺が伝えておく。何て言うんだ」



 暗闇の巫女は。

 躊躇った表情を見せて。

 口を開く。



「……反逆者の討伐に、夏の総力を挙げて。向かわせるように伝えなさい。さすれば、王都は空になり。その隙を突いて。次なる導き手、昆吾が王都を落とす。これで、確実に、時代は変わ、る」

「…………」



 暗闇の巫女はそう言うと。

 意識を失った。


 

 碧は目を大きく開いたまま。

 固まった。



 自らの発言で。

 時代が変わる。



 其の重責を。

 背負ったまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る