第17話 やっと時代(ストーリ)が動き始めます

 宮殿に未曽有の落雷が落ち。

 大きな火災が生じるが。

 

 即座に豪雨とも呼べる雨が。

 降り注ぎ。

 鎮火に至る。



 荒ぶっていた天候が落ち着き。

 碧らが宮殿跡地に辿り着くと。



 倒れ込んでいる妲己がいた。



 碧は全力で駆けよる。



「生きてるか、妲己ちゃん」



「さ、詐欺師さん。な、なんとか不幸に耐えきりました。ですが、私の身も心もボロボロでこれ以上、調停を続けることは出来ません」



「大丈夫だ。後は、俺がなんとかする」



「そ、そうですか。不甲斐ない私を赦して、くだ、さい」



 妲己はそう言うと。

 再び崩れ落ちる。



「………なぁ、妲己ちゃん。一つ聞きたいんだけど」

「なんでしょうか」



「なんで、そんなニコニコしてんだ」



「えっ?」



「……と言うか、あんだけの落雷と爆風浴びてるはずなのに、なんで衣服に汚れ一つねぇんだ」



「き、着替えたのです。はい、着替えました!」



「へぇ、そうなんだ。……まさか、不幸を跳ねのける宝具とか持っていて。一人だけ、不幸からエスケープした。とかねぇよな」



「そ、そそそそんな、便利な宝具があるわけないじゃないですか。この黄綬の衣にそんな宝具効果があるわけないです」



「なら、その宝具の効果ってなんだよ」



「……み、身だしなみをよくする宝具です。これで、汚れた衣服を綺麗にしたのです」



「へぇ、そうなんだ」

「はい、そうなんですよ」



「さっき、着替えたって言ってたけど。宝具で綺麗にしたんだね」

「……はっ!」



「さっさと本当のことを言え」



「ううぅ。……この黄綬の衣で不幸を跳ねのけました。はい、妲己ちゃん、一人だけ不幸からエスケープしました」



「そんな便利なモノ持ってんだったら。初めから使えよな」



「使えたらずっと使ってますよ。ですが、此の宝具。一度使用したら。暫くは使えなくなるのですよ。だから、さっきのような本当に危ないときにしか使えない、限定的な宝具なのです」



 妲己が黄綬の衣を袖の中に直すと。

 スカーフで顔を隠した少女。

 暗闇の巫女が近づいてくる。



「宮殿がこんなに壊されるだなんてね。妲己、アンタ、私に何か恨みでもあるの」

「……あぁ、先程の不幸の影響で立ちくらみが」



「話聞いてたわよ。黄綬の衣で一人だけ不幸から逃れたのでしょう」

「うっ!」



「まぁ、良いわ。宮殿の一つや二つ」

「お、怒らないのですか」



「私、無駄なことはしない主義なの。アンタを怒鳴りつけても何にも変わらないわ」



「詐欺師さん。あの人、優しい人です」

「呆れられているだけだろうが」


 

 暗闇の巫女は乱雑に頭を掻くと。

 指を鳴らす。



 指を鳴らすと同時に。

 仮面を被った男が現れた。



「夏王に二つ言付けをお願いするわ。……一つ、新たな宮殿を造らせること。もう一つは、末喜だったかしら。あの子が住んでいる宮殿を仮住まいとして、譲るように言ってきて頂戴」

「はっ」



 仮面の男が消え去ると。

 暗闇の巫女は燃え尽きた木材の上に座る。



「良い機会だわ。少し、話でもしましょうか。碧だったからしら。色々と聞きたいことがあるのでしょう」



「そうだな。色々と聞きてぇことがある。伏羲は何処まで本当のことを話してるか分からねぇし。妲己ちゃんはIQ3ときてやがる」



「……無事だったのか。あんたら」



 青年が哮天犬を連れて。

 戻ってくる。

 妲己は哮天犬を抱きしめた。



「ああ、哮天君、感動の再会です。はい、お手。お座り。……あっ、其れはお座りではありません。お○んちんです。あぁ、ちっちゃいですぅ」



 暗闇の巫女は同情する目をして碧を見る。 



「あれの相方か。本当に大変そうだな」

「本当に大変なんだよ」



「で、何を聞きたいんだ。私の正体か?」



「アンタの正体も気になるが。其れよりも……調停者って何なんだ。伏羲からは、定めた時代通りに動かす者と言われたが。そもそも、なんで伏羲が時代の流れを定めて。意のままに動かし出したのかが分からねぇ」



「本当に何の説明も受けてないのね。……まぁ、良いわ。少し話が長くなるでしょうけど、話してあげる。調停者の本来の役割と、其の役割を捻じ曲げた。伏羲についてな」



 暗闇の巫女はそう言うと。

 月を眺めた。


 暗闇の巫女の瞳は。

 次なる時代を拒むかのような目であった。

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