第15話 宝具 伏羲式太極図

 妲己だっきが放った。

 宝具、太極図たいきょくずによって。


 

 大陸を取り囲んでいた。

 結界の正体が明らかになる。



 妲己は感情のこもらぬ声で呟く。

 


「………解析。終了いたしました。大陸を取り巻く結界の正体は、神具、四宝剣しほうけんです」



 妲己の言葉を聞いて。

 伏羲ふっきの表情が変わる。



「神具だと。……何故、そのようなモノがこの世界に存在するのだ」

「なぁ、なぁ。伏羲、神具って何なんだよ。宝具と違うのか」



 碧が問いかけると。

 伏羲は面倒そうに言い放つ。



「……神具とは原初、元始の女神が造り上げたオリジナルの武具を指す。その武具は強大すぎて、神々すらも扱えるモノが限定されている。これでは、色々と不都合が生じたため。宝具と呼ばれる。神具の出力を大幅に落としたもの。謂わば、レプリカが造られるようになった」



「要するに、神具の模造品が宝具ってことか」

「その認識で間違いはない。……妲己よ。結界の解除できるか」



「やりたくないって言っても。やらすのでしょう」

「無論だ」



「後悔しても知りませんよ。……太極図よ。神具、四宝剣を解除してください」



 天空に浮かび上がった。

 太極図の陰陽が開き。

 神々しさを放ち始めると。



 大陸中に取り囲んでいた結界に。

 歪が生まれた。


 

 結界に刻まれた。

 八卦の文字が侵食するかの如く。

 塗り替えられていき。



 結界に亀裂が走り始める。



 伏羲は勝ち誇った顔で呟く。



「この様子だと、半刻も立たずに解除されるだろうね」



 暗闇の巫女は口元を歪め。

 結界の亀裂を見ていると。


 妲己は目を大きく見開き。

 身を構える。



「だ、駄目です。解除できません! 太極図で解除した結界配列が、再び浮かび上がり。異なる結界陣が付与されています」

「なんだって?」



 伏羲は少しばかり苛立った声色で続ける。



「腐っても神具と言うことか。……妲己よ。太極図の全てを開放しろ。四宝剣の修正が間に合わぬ速度で解除すれば、問題ないはずだ」



「………どうなっても知りませんよ」



 妲己は天空に浮かび上がった。

 太極図を見据え。

 演舞するかのように。

 宝具、太極図の開放を行う。



「……八卦と八卦、重ね合わせ森羅万象を表す」



 妲己が演舞を続けるにつれ。

 太極図の展開が速まり始めた。



「万象は陰陽へと隔たれ。陰陽は四象へと至る」



 結界に刻まれた。

 全ての八卦が一斉に塗り替えられ始める。



「………」



 暗闇の巫女は冷や汗を流して。

 その成り行きを見つめる。



「四象は両義を隔て……やがて太極へと至る」



 妲己が全ての詠唱を唱え終えると。

 両手を天に捧げて告げる。


「宝具展開、伏羲式太極図。……万象を支配なさい」



 結界に亀裂が走り始める。



 伏羲は結界が軋む音を聞き。

 勝ち誇った顔でいると。



 天空で神々しさを放っていた。

 太極図がボンっと言う。

 爆発音が鳴り響くと。

 地面へと落下した。



 妲己はヒビが入った。

 太極の勾玉を受け止め。

 頷きながら言う。



「やっぱり、無理でしたね。ドンマイです」



 伏羲は重いため息を吐き。

 諦めたかのように言い放つ。


「僕の太極図でも無理と言うわけか。……仕方ない。違う手段をとるとしよう」



「違う手段ですか?」



 妲己は砕けた宝具。

 太極図を袖の中に戻し。



 回天珠を取り出して。

 撫ぜていた。



「僕の協力者が、その時代にいる。確か、暗闇の巫女と名乗っているはずだ」

「ああ、その人なら私たちの目の前にいますよ」



「……ご無沙汰してます。伏羲様」



「ああ、いたのかい。知っての通り。僕は君たちの姿を見ることができないんだ。この結界が解除されるまで、君が僕の目となって。調停者を見守ってくれ」



「……了承しました」



「ああ、あと、暗闇の巫女よ。流す程度に聞いていたが。私が君を討つ命を放ったと思い込んでいたようだね。僕が君を裏切るはずがないだろう。全く、妲己に振り回されるだなんて。君もまだまだ、青いね」

「……そう言う貴方こそ、青いですね」



「なにが青いのだい?」



「妲己の宝具を使った時の代償をお忘れですか。宝具に関わりし者、全てに不幸が訪れます。貴方が指示し、貴方の紛い物の宝具を使ったのです。相応の代償が貴方にも訪れるはずです」



「言っておくけど。僕は神だよ。幸も不幸も超越した存在だ。下らぬことを言う前に、君はやるべきことをやりなさい。……現状、妲己が身に着けているブレスレットだけが、僕と其の世界を繋ぐ唯一のモノだ。そのブレスレットが砕けると。君たちを回収することも難しくなる。だから、破壊されぬように気を付け……」



「くっしょん」



 妲己はくしゃみをすると。

 撫ぜていた回天珠が。

 ブレスレットを圧迫し

 砕け散る。



「………あっ」



「「「…………」」」



 其処にいた全員が妲己の顔を見つめる。



「やっちゃいましたね。……あっう、だ、大丈夫です。回天ちゃんは、傷ついてません。OKです。えっ、なんですか。この空気。ああ、そうでした。一応、叱っときますね。めっですよ。めっ」



 妲己は砕け散ったブレスレットより。

 回天珠に傷がないかが気がかりだった。




 次回



 伏羲再登場。

 不幸が不幸が訪れるのです。

 碧、全力逃走。



 お楽しみに。

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