序章 調停者試験
1,面接会場は此方になります
待合室のような場所におり。
時代錯誤の恰好をした者達が。
碧と同じく椅子に腰掛けていた。
碧は理解できぬ状況に。
頭を掻きながら状況を整理する。
「何処だよ、此処? と言うか、俺は、死んだんだよな。死因は確か……スカート覗いて死亡」
碧は死因を思い出し。
突っ込み紛いに立ち上がる。
「納得できっかぁ!」
碧が叫ぶと。
側に座っていた。
戦国大名の身なりをした男が。
呆れるように言い放つ。
「うつけが。男児たる者、如何なる時でも動ずるでない」
碧は座り直して尋ねる。
「あ、あの。此処、何処っすか?」
「寝ぼけておるか。此処は、調停者面接会場に決まっておるではないか」
「調停者、面接会場?」
碧は聞き慣れない言葉にオウム返しする。
「よもや、お主。何も知らずに招かれたのか」
「知らねぇもなにも。目が覚めたら。此処にいたからな」
「ふむ。つまり、死後ホヤホヤと言う訳だな」
「出来たてホヤホヤみたいに言わなねぇでくれる。ほっとでもっとな弁当じゃねぇんだから」
「しかし、お主は運が良い。此処、暫く空きがなかった調停者の枠が、久方ぶりに空いたのだ。其の枠を巡って、我ら英傑が、自らをプロジュースとやらをして。その座を勝ち取ると聞いておる。お主、見慣れぬ衣服を纏っているが、お主も歴史に名を遺した英傑であろう」
「俺が英傑だって? そんな大層なタマじゃねぇよ。経歴詐称して、経営コンサルタントしてただけだぞ」
碧が困惑していると。
電子音が鳴り響く。
ピンポンパーポン。
オドオドした女性の声で。
名前が呼ばれる。
「お、お呼び致します。第六天魔王様。えーっと。尾張在住、本能寺で逝っちゃった。大うつけ様。面接会場にどうぞ」
「名で呼ばぬか。うつけが! ……まぁ、お主は儂の幸運を願っておくことだな」
男は胸元から扇子を取り出し。
豪快な笑い方をしながら扉を開ける。
其れと同時に。
部屋の中から男の声が響いた。
「はい、失格。ノック忘れてるよ。あと、扇子片手に入ってくるのもマイナスだね。はい、次」
足元の開閉ドアが開き。
男の絶叫と共に落ちていく。
「是非があるぅ!」
碧は呆然とその光景を見ていると。
空いた席に男が座り込んだ。
「いかんぜよ。あれは、いかんぜよ。折角な好機、あないな態度で迎えたらいかん。おまんも、そう思うやろ」
「……なんか、土佐でアンタに似た銅像を見たような、見てないような」
「そんな大層な人物でもなか。……なんやら、おまん、わてに似ててな。つい、話しかけてしもうた。おまんも商人か」
「いや、まぁ。金のねぇ時、情報商材売ったりしてたが。あれって商人になんのか?」
「情報商材とやらは、よくわからぬが。物の売買しておる時点で十分に商人じゃ」
男は袴の袖に手を入れて続ける。
「しっかし、調停者とやらは。まっこと好奇に満ちておる。是非とも、其の任にあやかりたいもんじゃ」
碧は口元に手を当て。
問いかける。
「一個、聞きたいんだが、調停者って一体何なんだ」
「……わても詳しい話は知らんのや。ただ、時代を動かす者を調停者と呼ぶとだけは聞いちょる」
碧は思案してから続ける。
「わっかんねぇな。どうして、あんたらは調停者に成りがたがるんだ? 時代を動かすなんぞ面倒なだけじゃねぇか」
「……調停者になれば、死したこの身、蘇らせて貰えると聞いちょるからや。わては、暗殺されて見えなんだ。新たなる時代の夜明けを」
ピンポンパーポン。
再びオドオドした女性の声で。
名が呼ばれる。
「続きまして、土佐の……」
男は名前が呼ばれる前に。
声高に立ち上がる。
「さて、日の本の夜明けは明るいぜよ!」
男は堂々とした足取りで。
ドアをノックしようとした瞬間。
「いや、調停するのは日の本ではなく。大陸だからね。はい、次」
足元の開閉ドアが開き。
男は落下しながら叫ぶ。
「こっちは、暗いぜよ!」
碧は個室のドアを見つめながら呟く。
「成る程、調停者とやらになれば、蘇ることが出来るのか」
碧が思案していると。
電子音が鳴り響く。
ピンポンパーポン。
オドオドした女性が。
躊躇うように声を出した。
「こ、
碧は自らの名が呼ばれると。
ネクタイを締め直し。
ゆっくりとした足取りでドアの前に立った。
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