詐欺師ですが、不幸のヒロインが足を引っ張るせいで時代が進みません。 ~これより大陸を調停します 夏王朝編~

橘風儀

プロローグ

運命の出会いですよ

 某日未定。

 とある青年が不運な事故に見舞われた。



 横断歩道を渡っている途中。

 無人トラックが突っ込んできたのだ。



 青年は眼前に迫る。

 トラックを見て。

 硬直する。



 死の恐怖によって。

 身体が動かず。

 立ち尽くしたのだ。



 だが、其の硬直は一秒にも満たず。



 青年は死を回避する為。

 全力で安全地帯に飛び込んだ。



「うぉぉ! あっぶねぇ! 俺じゃなきゃ死んでたぞ!」



 青年が悪態を付くと同時に。

 トラックが歩道橋の支柱に衝突し。

 歩道橋の落盤が始まった。



 青年の頭上に。

 数多のコンクリートの塊が。

 降り注ぐ。



 普通なら。

 抗えぬ運命の前に。

 立ちすくむか。

 神に祈るかだろう。



 だが、男は運命なぞ信じず。

 神に縋る気も一切なかった。 



「俺は、こんな、所で、死ねねぇんだよ!」



 男は死に物狂いで駆け出し。

 歩道橋の落盤地帯から抜け出すと。

 天空が光り輝いている事に気づく。



「…………ん?」



 天空を凝視すると。

 小型隕石の流星群が。

 降り注いできていた。



「Wow。きれぇい。……って言ってる場合じゃねぇ!」



 男は天から降り注ぐ。

 即死の届け物を。

 必死になって躱していく。



「今日の、星座占い、一位、だったんだぞ! なぁにが、人生最高の日だ。人生最後の日じゃねぇか!」



 隕石の落下により地表は捲れ。

 飛散したコンクリートの飛翔物が。

 即死の鈍器として男に迫り来る。



 青年は鞄を盾にして駆け抜ける。



「耐えてくれよ。俺の相棒、タフなブック君」



 青年の鞄の中には軍用の耐久性を誇る。

 格安中古ノートパソコン。

 (panosonic製)が入っており。

 其れを盾に。

 飛散物を防ぐ。



 爆心地を駆け抜けると。



 其処には。

 青天の大空が広がっていた。



「生きてるって素晴らしい」



 青年は両手を広げ。

 生を実感していると。

 何処か影のある美女が。

 ドン引きした目線で。

 青年を見つめていた。



 青年は紳士的な笑みを浮かべ。

 女性へと迫る。



「いやぁ、これは災難。いやぁ、幸運ですね。貴女みたいな美人な方と出会えるとは、どうです。この後、一緒にお茶で……」



 男が言い終える前に鞄に入ってた。

 軍用のノートパソコンが爆発した。



「ごうっふ!」



 青年が吹き飛ぶ最中。

 胸ポケットに入っていた。

 格安中古スマホもついでに暴発し。



「もうっふ!」



 頭から地面に落ちる。



 青年は混濁した意識の中。

 顔を見上げると。

 女性のスカートの中が直視できた。



「……く、黒。絶対領域の先が見えるとは、まさに人生、最高の」



「ひぃぁぁぁぁ!」



 女性は悲鳴に近い声でスカートを抑えながら。

 青年の顔面を数度踏みつけた。



 青年の後頭部は。

 数度コンクリートに叩き付けられ。

 やっと冥界に旅立つ。



 亡くなった男の名は黄宮碧こみや あおい



 年齢二十八歳。

 職業不詳。

 自称メンタリストを名乗る男であった。



 殺害現場には。

 陰のある女性のみが残される。



「あわわわ。直接、手を下してしまいました。どうしましょう。というより、あの襲撃を受けて。何故、生き残れるのです。パ、パトカーの音が聞こえてきました。……取りあえず、目立つ前に逃げましょう」



 女性はおどおどしてから。

 その場から消え去る。

 


 犯行現場に残ったのは。

 黄宮碧の遺体と。

 瓦礫の山だけであった。

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