第7話 9/11 22:42




「そうっすね。今年 ダメだったら 身の振り方 考えなきゃなんないんすけど……」



 なんだって こんな話を アタシは…。

 おっさんが アタシのこと 名字で呼ぶようになって2週間。

 なんでか おっさんと話す時間が増えてる。


 しかも アタシが 話してることが多い。

 ……ホント なんでだ?

 


「松嶋さんも 大変だな。……もし 僕に手伝えること あったら できるだけ 協力するよ」



 おっさんは 自分のこと『おじさん』ってゆーのをやめて『僕』ってゆーようになってやがる。

 あたしは 相変わらず『おじさん』って 呼んでるけど。



「あー そうっすねー。もし できんなら トス上げてもらえると 嬉しんスけど……スパイク練習したいんで」


「……トスか。やったことないし 上手く上げられるかな…。……その なんだ…。 スパイク打てればいいんだよな? トスじゃなくて 投げて上げても 構わないかな?」



 つい軽い感じで 頼みごとを口にしちまう。

 そして おっさんは 素直に返事をくれる。


 初めて 会ったときから ずっとそう。

 トレーニングの仕方とか 口にすると ホント素直に 指示に従ってくれる。

 今も そんな感じで トス上げてくれることになった。


 妙なおっさんだ。

 別に 気持ち悪りぃって 感じじゃねぇんだが。

 出会った頃は ちょっとブヨっとした感じだったけど 最近は トレーニングの成果で 少しずつ引き締まってきた。

 顔も ナイスミドルって感じでもなくて やっぱ ただの中年のおっさんって感じだ。

 下膨れは ずいぶんマシになったけど。

 喋り方も あんだろうけど 優しそうな顔つきだとは 思う。


 とはいえ ほとんど 自分のこと喋んねぇから 相変わらず得体の知れないおっさん。

 そーでは あるけど 悪いヤツじゃなさそうだ。

 変な目付きで見てきたりとか そーゆー感じは 無ぇ。


 けど 夜の公園で おっさん一応 男だし アタシも一応 女だし 万が一のこと 考えて すぐ 傍に座ったりはしない。

 ホント 一応だけど。


 なんか おっさんだし 若い女と話せてラッキーとか 思ってんのかも 知れねぇけど おっさんからは ほとんど喋らねぇ。

 アタシも トレーニングやら バイトやら そんな話。

 愚痴 聞いてもらってることが 多い。

 聞いてて楽しいとも 思えねぇんだが…。

 

 なんなんだろな この関係。

 友達じゃねぇし。


 アタシは やっぱ おっさんのこと 男って思ってる。

 おっさんも アタシのこと 女って思ってる。

 筋トレんときとか 姿勢直そうと 身体触りかけたりすると ほんの少し おっさんが緊張するのが わかる。

 アタシのこと 女って 意識してるのは 伝わってくる。

 

 かと言って 男女の仲ってのじゃ 絶対ねぇ。

 歳も 全然 違うし。

 おっさんの薬指には 指輪が光ってる。


 筋トレ仲間?

 コーチと生徒?


 どれも しっくりこねぇ。

 やっぱ《知り合い》としか 言えねぇ…な。

 

 


「すんませんスけど そこのバスケゴールより ちょい低いくらいに 上げてもらっていいっすか?」



 バスケゴールとサッカー用のシュート板のある一角に移動する。

 おっさんは 黙って ボールを何度か上に放って 感覚を確かめてる。


 目線で 合図を送ると フワッとボールを上げてくれる。

 ちょい高い。


 でも2度3度と 指示を出すと ちょうどいい高さに ボールを上げてくれるようになる。

 若いころ 運動神経 良かったってのも あながち嘘じゃねぇのかも。



 バシュッ!



 ボールが 勢いよく シュート板に叩きつけられる。

 悪くねぇ 感覚。


 もう一度 合図を送る。

 今度も ドンピシャの高さに 上げてくれる。


 力一杯 ボールを叩く。


 

 バァンッ!!



 夜の バスケコートに 破裂音が響く。 

 ……こいつは 悪くない。

 久々の感覚だ。

 ………。

 ……。

 …。

 

 

 

 

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