第6話 8/27 22:42




 いつものように 50mダッシュを5本やった後 健康器具広場へ。

 いつものように おっさんが 腹筋をしてる。

 なんでか ワカンネェけど ホッとする。


 もしかしたら いねぇんじゃねぇかと 少しだけ そんな気がしてた。


 いつものように 無言でトレーニング。

 そして インターバル。



「いつも 来てくれてるんすか?」


「えっ? ……ああ。たまにね。よく行く出先から 近いから…」


「せっかく 運動してんのにテスタなんて 食べてちゃダメっすよ。めっちゃカロリーあるんすから……アタシも バイトなんで マニュアル通りオススメしたっすけど サイドにナゲットとポテト両方とかダメダメっす。メタボに逆戻りっすよ?」



 昼 会っちまったのが 妙に気恥ずかしくて 言わでものことを ペラペラと喋り散らしちまう。



「……ああ。うん。気をつけるよ…」



 怒ってもいいし ツッコんでもいい場面だってのに おっさんは 素直に頷いて 神妙な顔してやがる。

 変に意識して空回ってる アタシの一人相撲。

 きっと おっさんにとって アタシは ずいぶん年下の小娘で 一々 ムキになるような相手じゃねぇんだろう…。


 ……いや。

 アタシにとっても 夜 トレーニングのときに 《たまたま出会う おっさん》ってだけで それ以上でも それ以下でもねぇんだが…。


 気を取り直して トレーニングを再開しようとする。

 っと おっさんが なんか言いたそうに こっちをじっと見てる。


 なんだ?

 首を傾げて 見返すと ちょっと気まずそうに 目を逸らす。


 なんなんだ?

 おっさんのクセに 面倒臭せぇ。

 


「なんすか? 言いたいこと あったら 言ってくれて いいっすよ。年下のクセに 失礼なこと言っちゃったのは 謝るっすけど?」


「えっ? あー いや そんな話じゃないんだ…。……その なんだ…。…その 僕の名前は 方木田ほうきだ 嘉則よしのりって言うんだが…」



 おっさんの名前なんて 興味ねぇ…。

 突然 なんだ?



「今日 テスタで お姉さんの名札を見てしまったんだ。松嶋さんって言うんだな……。…その 嫌で なければなんだが『松嶋さん』って呼ばせてもらって いいだろうか?」


 

 ああ。

 あの時 じっと見てたのは ネームプレートだったのか。

 名前なぁ……。

 わざわざ 正面切って言われると 断る理由なんてねぇしな。

 


「別に いいっすよ」



 とはいえ アタシが 名前で呼び返す義理は 無ぇ。

 それに 正直 聞き慣れない名字で 覚えられ無かった。

 下の名前も ヨシなんだっけ?


 まあ アタシは 変わらず『おじさん』って呼ばせてもらおう。

 ………。

 ……。

 …。


 

 

 

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