第4話 8/11 22:47





 次の日も おっさんは 健康器具広場で 筋トレしてやがった。

 その次の日もだ。


 その次は いなくて三日坊主かと 思ったら その後 続けて3日来た。

 

 その後 2日は雨。


 雨の日は アタシもロードだけやって 筋トレは部屋で スクワットと腕立て しかしねぇから おっさんが来てたかどうかは知らねぇ。

 まあ たぶん 来てねぇんだろうけど。


 そんな感じで おっさんは たまにいねぇ日もあっけど ほぼ 毎日 トレーニングに 顔を出した。


 7月の月末が過ぎ アタシは25に。

 お祝いのメッセージは母親からのメールだけ。

 まあ ハタチ越したら 誕生日なんて めでたくもねぇけど。

 


 それから10日。

 相変わらず おっさんは アタシより先に健康器具広場にいて 筋トレをしてやがる。

 毎日の成果なのか 筋トレする姿が だいぶ様になってきた。


 負荷のかけ方は まだまだだけど アタシが 3セットやり終える時間で おっさんは2セット終わらす。


 そんな いつもいつも話すワケでもねぇけど 一応 会釈はするし たまに アドバイスしたりとか そんな感じで 少し喋る。



「そーいや おじさん 懸垂はしないんっすか?」


「懸垂か…。おじさん さすがに無理な気がするな」



 おっさんは自分のこと『おじさん』って言う。

 アタシのことは『お姉さん』って呼ぶ。

 互いに名前も知らねぇ 妙な関係。



「確かに いきなりはキツいっすけど 斜め懸垂から 始めたらどーっすか?」


「斜め懸垂?」


「そーっす。普通鉄棒とかで 角度つけてやる懸垂っすよ。足 着いてやるし 負荷も好きに変えれるんで おじさんでも できんじゃないっすか?」


「……なるほど。あそこの鉄棒でできるかな?」


「おじさんの体格だと ちょっと苦しいかもっすけど 最近 少し身体 絞れてきてるみたいだし いけんじゃないっすか?」


「すまないけど やり方 教えてもらえるかな?」


「いーっすよ。付き合います」


 

 ………。

 ……。

 …。


 

「……こ…れは……ッ キツい……な」


「6回クリア。半分 越したっす。残り4回。いけるっすよ」



 ………。

 ……。

 …。



「なんだかんだ 10回クリアじゃないっすか。おじさん やるっすね」


「……いや。コーチが良かったからだよ。ありがとう」



 おっさんは 座り込んで ゼェゼェ言ってっけど きっちり礼を言う。

 うちの親父より 少し若いぐらいじゃねぇかと思うんだけど アタシみたいな小娘に ちゃんと礼が言えるってのは偉れぇと思う。

 うちの親父なんて アタシには 絶対 礼なんて言わねぇもんな。



「いやでも おじさん ここ3週間ほどで ちょっと 筋トレ 様になってきてんじゃないっすか。昔 なんか やってたんすか?」


「ああ。おじさん 学生の頃はさ アメフトやってたんだ。アメフト知ってるかな? アメリカン・フットボール…」



 アメフトか…。

 おっさん 背は 高けぇし けっこう骨格は ガッチリだもんな。

 今は だいぶ脂肪ついてっけど。

  


「アメフト 知ってるっすよ。あの ヘルメットかぶってやるラグビーみたいなヤツっすよね? 大学の体育会にあったっす」


「おじさんも 学生時代は 体育会のアメフト部で タイトエンドやってたんだ。もう ずいぶん前の話だけど…」



 タイトエンド?

 ポジション名か?


 高校んとき ちょっとだけ付き合った男が ラグビー部だった。

 ラグビーだと フォワードと バックスだったよな…。


 全然 わかんねぇな。

 どんなポジションだ?

 

  

「これでも いい選手だったんだよ…。弱いチームだったけど 4年間 頑張ってさ 最後の年は Aリーグとの入れ替え戦まで 行ってさ。負けちゃったけど……おっと 昔の自慢話をするようになったら『おじさん』だな…。ゴメン 聞き流しといてくれ。若者は 未来の話をするんだよな?」


「なんすか それ? 娘さんにでも 言われたんすか?」



 おっさんの 左薬指には 銀の結婚指輪が光ってる。

 毎晩 公園に来てっけど 家族がいるらしい。

 さすがに アタシほどデカくはねぇだろうけど 中学生くらいの 娘がいても おかしくねぇ年格好だしな。



「いや 職場の 若い子が言ってたんだ。……おじさん 子どもは いないんだ」



 おっさんは 少し寂しそうな顔。

 つまんねぇ軽口で 傷つけちまったらしい……。

 結婚とか 子どもとか アタシには 想像もできねぇ世界。

 いらねぇこと 言うもんじゃねぇな…。

  


「お姉さんは スポーツ本格的にやってるんだろう? バスケ? バレーかな?」


「バレーっすね」


「学生さん?」


「あー ……いやぁ。なんつーか…。一応 社会人なんすけど……」



 たぶん おっさんは おっさんで 悪気なく 聞いたんだろうけど そこは アタシの一番触れて欲しくねぇところ……。

 

 お互い 微妙に気まずい。

 ……まあ そーゆー日もある。

 つーか 別に おっさんと 喋りに来てるワケじゃねぇし……。

 ………。

 ……。

 …。

 


 


 


 

 

 

 

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