第3話 7/22 22:45





 ダッシュを終わらせ 今夜も 城西公園の健康器具広場を目指す。


 遠目に いつものベンチを見るけど 今日は使えそうだ。

 って思ってたら ストレッチベンチに妙な先客がいた。


 昨日のおっさんだ。


 奇妙なことに 今日のおっさんは トレーニングウェアを着て腹筋をしていた。

 昨日ほど タラタラはしてねぇけど 相変わらずのトロくさいペース。


 どーしたもんかと思いながら いつものベンチの上に ボディバッグを置く。


 おっさんは アタシに気がついた様子で 起き上がり 会釈をすると ストレッチベンチを譲ってくれる。

 

 今日のおっさんは 酒は飲んでないみたいで 顔は素面。

 目も しっかりしてる。

 どっちかってゆーと色白で ちょっと下膨れ気味。



「……ども スンマセンっす」



 無言で譲ってもらうってのも 感じ悪りぃし 一応 礼を言って 筋トレ開始…。


 1セット終わって ベンチに戻ってくると おっさんは 螺旋バーに『跳びつこう』としてた。

 『跳びついてた』じゃ無ぇ『跳びつこうと』だ。



「おじさん…。まずは 跳びつける高さから やったらどーっすか?」


「……ああ。まぁ そうだな…」



 おっさんは 素直に アタシが跳びついてたバーより2本ほど低いバーを目標に 変えてジャンプする。

 アタシより10㎝近くは 身長高けぇんだけど おっさんのジャンプは 伸び上がったカエルみてぇで バランスが悪りぃ。

 右手の指先が かろうじてバーに触れる。

 


「おっと なんとか 触れた。お姉さんのアドバイスのおかげだな。ありがとう」


「ナイスジャンプっす。その調子っすよ。両足で踏み切ったら もう一段 跳べるんじゃないっすか」



 ジムバイトのクセで つい褒めて アドバイスしちまう。

 

 ……いや。

 別に 褒めちゃいけねぇワケでもねぇけど。


 3分のインターバルが 終わって 2セット目を始めると おっさんは コースを譲ってくれる。


 2セット目終わらせたとき おっさんは スクワット中。


 けっこう 膝 曲げてんだけど 背中が 前傾し過ぎで アレじゃ効か無ぇ。

 ほっときゃいいものを 寄ってって 声をかける。

 


「腰 深く下ろすより 背骨のライン意識した方がいいっすよ。今は 負荷 上げるより 姿勢 保つことが 先決っす」



 おっさんは これまた素直に 姿勢を直して スクワットしようとする。

 ただ 深く下ろそうとして 膝がガクガクしてる。

 


「おじさん そんなもんで。無理せず徐々に負荷上げていかないと続かないっすから」


「……確かに。コレ きついな」


「とりあえず 今くらいの位置で 10本 やりましょ」


「……わかった。やってみる」


 

 おっさんは プルプルしながらも アタシが決めた位置まで 腰を下げて 10本 スクワットをやりきると 地面にヘタリ込む。


 

「おじさん ナイスガッツっす」



 おっさんは ゼェゼェ言ってて 返事もできねぇ。

 こないだ煙草 吸ってたしな……。


 うちの親父も そうだけど なんで煙草とか 吸うかな?

 心肺機能 下がるし 身体に悪りぃし。

 しかも 臭せぇし。

 その上 金掛かるし……バカじゃねぇの。



「じゃ アタシ 3セット目 やるんで」



 ヘバってる おっさんとか よく考えたら アタシには 関係無ぇ。

 一応 声だけ 掛けて 自分のトレーニングに戻る。


 そう。

 なんか 成り行きで コーチングしちまったけど アタシにはやらねぇといけねぇことがある。

 集中だ……。

 ………。

 ……。

 …。

 


 


 

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