4作品目「中間テストの赤点さん」

 普通、授業とは真面目に受けるものだと思う。ただしこの学校を除いて。

 『ゆ』から始まる名前の夢無は最後尾、窓際の床置エアコンの直ぐ側から教室を眺めていた。右斜め前の宝和里は机の中にスマホを隠し、膝に静音軸のキーボードを置いてなにかを打ち込んでいる。その先同じ列の最前列に座っている柄斯波は、堂々とメガネを外し突っ伏している。他にもちらほら眠っていたり隠れてスマホをいじっていたり、爪の手入れをしていたり……話を聞いているのは2割にも満たないだろう。


 そう、この学校は変わっている。

 普通教科に関する興味があまりにも薄い。それは教師陣も承知の上、最低限の授業しかしない。


 あの体育祭後、初めての中間テストがあった。結果は言うまでもない。

 夢無は返却時に普通教科の職員室に呼び出され、肩をすくめて向かった。M科の教室は1年生だけ普通科のフロアにあり、廊下に出ればすぐたどり着く。なぜM科の1年生だけこの階なのかははっきりわかっていない。一番問題児が多いだとか、そもそもM科のフロアは少し特殊で教室が足りなかったとか、そんな噂は聞いたことがあった。

 職員室の前で、宝和里がスマホをいじりながら壁に寄りかかっていた。

「あれ、宝どしたん?」

「ん、数学の赤点で呼び出されたわ。夢は?」

「一緒。ここで待ってりゃいいの?」

「おん、中にいるけどなんか準備してるっぽいわ」

 デザインタイル張りのざわつく廊下の中で、ただただ無言に待つ二人。そこに

「赤点の人ってここでいいのかな?」

 おどっとした姿勢で指剛 冬果が立っていた。

「うん、ここで待っていればいいんだって」

「……あ、ありがとう……」

「君も数学?」

「うん……苦手でさ」

「私も苦手。ぎりぎり足りなかった」

 気まずそうにお互いそっぽを向いてしまった。もう入学して、いやまだ入学して2ヶ月。実習の班も違う二人は流石にお互いの名前もわからなかったのかもしれない。実際、夢なしは相手の名前が全くわからなかった。

「はいはい、赤点の子たち〜」

 その後、多少のプリントを貰ってなんとか成績を保った三人なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

創造の楽園 @Artficial380

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ